ネムリユスリカの乾眠を支える代謝産物の変化ネムリユスリカ幼虫は、乾眠の誘導・維持・解除の過程でダイナミックに代謝産物を変化させている。・トレハロースは通常の血糖として働き、細胞の解糖系を補充する・通常のミトコンドリア活性(クエン酸回路が回り、ATPを生産)・通常のアミノ酸代謝・通常の酸化還元バランス再水和の途中・トレハロースはガラス化し、細胞と生体分子を保護・ミトコンドリア活性は停止状態(エネルギーはクエン酸、AMPとADPとして蓄積)・酸化ストレスを起こさない無害のキサンツレン酸が蓄積・窒素を含む廃棄物はアラントインのような無毒代謝産物として蓄積・トレハロースの蓄積、細胞膜や タンパク質を安定化・毒性のある代謝産物の 蓄積を軽減・最後の数時間で ミトコンドリアが不活性化し、 ATPの代わりに AMP・ADPが蓄積図2NARO Technical Report /No.12/202220ネムリユスリカが持つ乾眠に必要な物質再水和過程水和状態乾燥状態乾燥過程た。一つ前の章でも書いたとおり、乾眠中の幼虫体内でのトレハロースは、乾燥保護物質としての役割を発揮します。乾眠幼虫を再水和するとトレハロースは直ちに分解されて、そのほとんどが再びグリコーゲンに変換されていました。分解されたトレハロースの一部は、再水和過程で活性化するペントースリン酸経路※4という特別な代謝系を通じて、NADPHという物質にも変換されていました。NADPHは抗酸化活性の駆動源として知られている物質です。再水和中のネムリユスリカ幼虫体内では、細胞傷害の原因物質の一つとして知られる活性酸素が大量に発・蓄積したクエン酸、AMP、 ADPを利用し、クエン酸回路 が早期に再開・トレハロースはグルコースへ 分解・ペントースリン酸 経路の活性化・NADPH生産により 抗酸化能力を強化・損傷を修復し、 最終代謝産物を除去生することがわかっています。トレハロースは、乾眠時における体内成分の保護物質としての役割だけでなく、抗酸化活性を駆動させるNADPHに変化することで、再水和過程での活性酸素を効率よく除去する役割をもつことがわかりました。 生物共通に、クエン酸回路※5という代謝系が活性化すると、ATPという生体エネルギー物質が合成されます。乾眠時の幼虫体内には大量のクエン酸が蓄積していました。一方、幼虫が乾燥するにつれて体内のATPは分解されAMP※6という別の物質に変化していました。興味深い通常状態の幼虫乾燥の途中乾燥状態の幼虫
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