農研機構技報No.12
26/40

開発技術の概要 開発したトマト用接ぎ木装置(以下、開発機)は、苗の切断部、接合資材である樹脂製テープを取り付ける接合部、苗を把持し移動させる回転テーブル、テープ供給部などから構成されます(図1)。回転テーブルが45■ずつ間欠動作で回転し、テーブル周辺に設置した各作業部にて順次接ぎ木作業を行っていきます。装置の電源はAC100Vを使用しており、各作業を行う動作部には、応答性や正確性を得るとともに装置の調整作業の簡易化を目的として、主に電動アクチュエータ※4を用いています。機体寸法は、全長730mm×全幅1,120mm×全高1,340mm、機体質量240kgです。 ■動作の流れ 台木※5は、地際から胚軸※6の長さが40mm程度になるよう、セルトレイすべての苗の本葉側を切断し、胚軸のみ残した状態で準備しておきます。苗を供給する作業者1名が、穂木※7と台木を1株ずつ回転テーブルに供給します。穂木苗は、子葉を取り除きながら供給します。苗供給後の装置での動作の流れは、苗の供給位置から45■回転した位置で、穂木と台木苗の斜め切断を同時に行い、さらに■ トマト用接ぎ木装置および■ はじめにNARO Technical Report /No.12/202226NAKAYAMA Natsuki 世界におけるトマトの年間生産量は182,000千t、栽培面積は4,840千ha(FAOSTAT、2017)に及び、その生産量は年々増加しています。その中で、モントリオール議定書(1992)で定められた土壌消毒での臭化メチルの利用規制による土壌病害への対策技術として、また、トマトの樹勢を強化する手段として、世界的に接ぎ木苗※1の需要が増加しています。 日本においても、トマトの接ぎ木苗の利用割合は全栽培面積の約58%(4,312ha)に達し(野菜茶業研究所、2011)、今後も増加が見込まれています。特に、近年では、苗を専門に生産する企業からの購入苗を利用してトマト栽培を行う生産者が増加しています。接ぎ木作業は、穂木および台木の茎を、各苗生産企業にて決められている切断角度で斜めに切断した後、苗の茎径に合った接合用チューブ※2を選択し、両苗をつなぎ合わせ完了しますが、本作業を1本当たり20秒程度で行います。作業は主に熟練した作業者による手作業で行われており、接ぎ木苗を増産していくためには安定した作業者の確保、育成、増員が必須となりますが、そのような人材の確保が年々困難となっております。 苗生産企業にとって接ぎ木作業者の不足は深刻な課題であり、購入接ぎ木苗を今後も安定的に供給していくために、接ぎ木作業の自動化・省力化が強く求められています。既に市販されているトマト用の接ぎ木装置もありますが、広く利用されているものはなく、また、接ぎ木苗1本ごとに用いる接合資材※3が、手作業用に用いられるチューブなどと比べると高価なため、低コスト化が求められています。 このため、農研機構では、接合資材に低コストな樹脂製テープを用いる新たな接ぎ木方法(特許第6747637号「接ぎ木方法」)を開発するとともに、本方法を連続的に機械処理するための自動接ぎ木メカニズム(特許第6751948号「接ぎ木装置」)を開発しました。さらに、これらの技術を用いて、農研機構、イワタニアグリグリーン株式会社および京和グリーン株式会社と開発技術の実用化に向けた共同研究を実施し、この度、トマト用接ぎ木装置を開発したので紹介いたします。中山 夏希トマト用接ぎ木装置を開発

元のページ  ../index.html#26

このブックを見る