農研機構技報No.12
39/40

https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/researchん」を系譜にもつものが多数ありました。「コガネセンガン」※1の置き換えを狙っていた「九州200号」※2もそのうちの一つです。「コガネセンガン」は、自殖や近親交配による優良遺伝子の集積と、導入種などの遠縁系統に有用遺伝子を蓄積させて雑種強勢を利用するという育種法の実践の中で誕生し、半世紀以上にわたり芋焼酎、菓子など、多様な用途で使われています。生みの親である坂井健吉氏には、途方もない数のイモを扱っていたために、ステッキ1本で淘汰すべきイモをはねとばしながら選抜したという「モーレツ育種」の逸話も残っています。そんな「コガネセンガン」の代替品種としての可能性が高いと、焼酎メーカーからの評価を受けたのが「九州200号」です。“運”の良いことに「コガネセンガン」より基腐病に強いこともわかりました。現地ほ場で「九州200号」を目にした人達からは品種化を要望する声もあがり、2021年、産地崩壊の危機を回避すべく予定を1年前倒しして品種登録出願に至りました。 サツマイモの品種開発では遺伝的多様性を高めることに力を注いできました。「こないしん」と「九州200号」の抵抗性は、その系譜から米国品種に由来していると考えています。「コガネセンガン」に象徴される「素材の多様化と変異の拡大」という育種の原点への回帰が、基腐病抵抗性という幸運を引き寄せたのかもしれません。基腐病抵抗性品種の開発は始まったばかりですが、国内外から収集した遺伝資源の中からは、すでにいくつかの抵抗性素材を見出しています。抵抗性遺伝子マーカーの開発も始めています。世界最高レベルの基腐病抵抗性品種の育成に向けこれからも走り続けます。 (九州沖縄農業研究センター 暖地畑作物野菜研究領域) 日本でのサツマイモの栽培は1605年、琉球国の北谷間切野国村出身で中国との進貢船の総管を務めた野国総管が中国から琉球国にサツマイモを持ち帰ったのが始まりです。自然災害に強く、飢饉の際には多くの人々の命を救ってきたことから、救荒作物として日本各地に広められました。人工交配による品種改良の始まりは1914年、全国規模での組織的な育種体制の構築は1927年のことです。農研機構では、1966年には作付面積1位(令和元年)の「コガネセンガン」、1984年には同3位の「ベニアズマ」、1985年には同5位の「シロユタカ」、2007年には同2位の焼き芋ブームの火付け役となり、輸出を牽引している「べにはるか」など多くの品種を育成してきました。今やサツマイモは、日本経済の活性化の一端を担う作物といえます。ところが、2018年に日本で初めて発生が確認された、茎葉の枯死およびイモの腐敗を引き起こすサツマイモ基腐病により南九州の産地は危機的状況に陥っており、その対策が喫緊の課題となっています。基腐病に対する品種の抵抗性について全く情報がなかったため、まずは鹿児島県内の基腐病発生ほ場で国内の品種や遺伝資源、約160種類を栽培し、抵抗性を評価することから始めました。絡み合う蔓を傷めないよう注意しつつ、2週間おきの発病調査を2年間行い、主要品種の殆どが基腐病に弱いことを明らかにしました。その一方で、でん粉原料の「こないしん」がやや強い抵抗性を持つことを見出しました。「こないしん」は「シロユタカ」の欠点を改良した、つる割病に強い品種です。基腐病の発生以前は、つる割病と線虫が南九州では問題となっていたため、線虫抵抗性にも優れている「こないしん」は育種素材として積極的に利用されており、育成系統の中には「こないし※1 参考文献 コガネセンガン ―坂井健吉博士の“育種魂”が産んだ奇跡― 小林 奏宏(NPO法人唐芋ワールドセンター 東アジア唐芋友好協会)※2 登録品種名は変更になる可能性があります。発行所/農研機構 広報部広報戦略室(編集委員会事務局)〒305-8517 ■城県つくば市観音台3-1-1製作協力・印刷/株式会社アイワット*本誌掲載の記事・写真・イラストの無断転載・複写を禁じます。2022年3月22日発行発行者/久間和生非売品本誌研究内容に関するお問合せは『農研機構技報』 NARO Technical Report 読者アンケートのお願いご意見・ご感想をお聞かせくださいhttps://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/ntrNARO Technical Report /No.12/202239NARO Technical Report No.12技報バックナンバー農研機構技報

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る