■ 凜夏の温暖化耐性■ おわりに※2 実生 種子から発芽して生育した植物体。接ぎ木など栄養繁殖に由来する植物体に対する語として用いられる。※3 短果枝 数cm以下の短い枝の芽が花芽となったもの。花芽が開花し、結実するので短果枝と呼ぶ。※4 えき花芽 数十cm以上伸長した枝に着いた先端以外の芽(えき芽)の中で花芽となったもの。えき花芽が着いた枝は長いことから長果枝と呼ぶ。※5 果そう(花そう) ナシの花芽1つは8〜10個の花を持ち、この1群を果そう(花そう)と呼ぶ。※6 自家摘果性 早期落果の程度が大きく、また落果時期が早い特性。適度な自家摘果性を備えた品種は摘果作業の省力化につながる。※7 芯腐れ 果実のうち、種子の周りの果芯の部分が茶色に腐敗する症状。開花期から幼果期に胴枯病菌などが感染することで発症する。※8 みつ症状 果実が成熟する過程で、果肉の一部が透明な水浸状になる生理障害。リンゴのみつ入り果は消費者に好まれるが、ナシでは品質や日持ち性の悪化の原因となる。※9 日持ち性 ナシの成熟果が常温で品質を保持する日数。参考文献̶1)農林水産省(2022) 特産果樹生産動態調査. https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokusan_kazyu/index.html (参照 2022-5-2)2)農林水産省(2020) 果樹農業の振興を図るための基本方針.(令和2年4月30日)https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/fruits/attach/pdf/index-96.pdf(参照 2022-5-2)3)Ito, A. et al. (2018) Comparative phenology of dormant Japanese pear (Pyrus pyrifolia) flower buds: a possible cause of ʻflowering disorderʼ. Tree physiology, 38: 825-839.4)農研機構(2019年12月16日) ニホンナシ発芽不良対策マニュアル. https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/20200108_nifts_nihonnashi_hatsugafuryo_manual.pdf5)齋藤寿広ら(2020) ニホンナシ新品種ʻ凜夏ʼ. 農研機構研究報告第3号, 1-8.6)特許第2021-108654号(2021) 果実の維管束褐変が抑制されたニホンナシの作製方法.羽山裕子・腰替大地.用語解説̶※1 低温要求時間 当該地域における気温7.2℃以下になる時間の延べ時間。低温要求時間800時間以上はナシの主要品種である「幸水」の基準であり、低温要求時間には品種間差が見られる。枯死率(%)平均値(%)7.62.646.736.85.141.8「凜夏」の果実鹿児島県■摩川内市における「凜夏」の花芽枯死率(2011〜2012年)品種花芽の種類短果枝えき花芽短果枝えき花芽凜 夏幸 水図5表3NARO Technical Report /No.13/202213特集 品種開発Ⅳ ■(果樹茶業研究部門 果樹品種育成研究領域 落葉果樹品種育成グループ)されていましたが、収穫果を高温処理することにより褐変化を抑制できることが明らかになりました6)。 「凜夏」の温暖化耐性は系統適応性検定試験で評価されました。前述の通り、ナシ栽培に与える温暖化の最も顕著な影響として、花芽の枯死が挙げられます。鹿児島県■摩川内市は気象庁による1991〜2020年の統計で年平均気温17.1℃であり、「凜夏」の育成地である■城県つくば市の14.3℃より3℃近くも高く、国内のナシ栽培地として最も温暖な地域の一つです。■摩川内市で「凜夏」の花芽枯死について調査を行ったところ、対照品種である「幸水」では短果枝、えき花芽ともに枯死率が35%以上であったのに対し、「凜夏」の枯死率はいずれも10%以下でした(表3)。このことから、「凜夏」は鹿児島県など西南暖地において花芽枯死の発生が少なく、安定生産が可能な品種だと評価されています。 ナシは通常、植え付けてから数十年間は同じ樹を使います。そのため、温暖化への対応として、既存の園地を栽培技術によって守る一方、新たに開園する場合は温暖化耐性を備えた品種を利用することも有効な対策になると考えられます。本稿で紹介した「凜夏」はその候補となる品種であり、今後の普及が期待されます。また、農研機構では「凜夏」を交配親としたナシ育種も進めており、生産者が安心してナシ栽培を続けていけるよう、今後も新たな品種の開発を進めていく予定です。
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