■ 「夏ごしペレ」の育種経過■ はじめに「夏ごしペレ」の越夏性関連形質主要特性形質盛夏期直後収量越夏後(秋季)収量越夏性夏ごしペレヤツユメ1121136.21001005.7フレンド95954.9「ヤツユメ」比、5試験地、3カ年平均「ヤツユメ」比、5試験地、3カ年平均「1不良-9良」、4試験地、3カ年平均備考表1NARO Technical Report /No.13/202234FUJIMORI Masahiro ペレニアルライグラス(Lolium perenne L.)は、栄養価と嗜好性が高く、初期生育と再生力に優れるなどの特徴があり、世界的に最も利用されているイネ科牧草です。本草種は、冷涼な気候を好み適応温度域が狭いため、わが国のような夏季に高温となり、冬季は氷点下となる環境条件には適応性が低く、利用地域が限られていました。近年、北海道では越冬性に優れたペレニアルライグラス品種の育成と共に、その有用性が周知されたことにより、採草地への追播※1などへの利用が2008年から2015年にかけて急激に広がりました1)2)。 一方、本州以南の地域ではペレニアルライグラスは積極的には利用されていません。それは本草種の有用性が十分に知られていない上に、十分な越夏性を有するペレニアルライグラス品種が無かったことが原因です。近年は寒冷地においても夏季に30℃を超えることが珍しくなくなり、越夏性を大幅に向上した品種が必須となってきていました。 そこで、本州以南の寒冷地(東北地域や中部高標高地帯:年平均気温9〜12℃の地域)でこれまで以上に安定して栽培できるように、越夏性に優れて放牧用または採草地への追播用として利用できる新品種「夏ごしペレ」を育成しました3)。本稿では、その育成経過および特性の概要などを紹介します。 「夏ごしペレ」は越夏性の大幅な改良を目指して育成された品種です。当品種の育成は、2001年の山梨県酪農試験場(現 山梨県畜産酪農技術センター)における選抜基礎集団の作成から始まり、2002年から2011年までの4サイクルの越夏性の選抜により系統が育成されました。選抜母集団の大規模化や個体選抜の高精度化などにより、大幅な越夏性向上が可能となりました。次に東北農業研究センターにおいて、2012年から複数ある越夏性系統の中から寒冷地での生産に適した系統の評価を行い、「東北7号PR(夏ごしペレの系統名)」を選抜しました。2014年から育成地における諸試験と、各地における地域適応性検定試験※2を開始しました。地域適応性検定試験でも越夏性などの優秀性が認められたため、品種名「夏ごしペレ」として2018年4月に品種登録出願を行いました。2022年5月から、カネコ種苗株式会社、雪印種苗株式会社、タキイ種苗株式会社から「夏ごしペレ」の種子の販売が始まりました。特集 品種開発Ⅳ ■温暖化に対応したペレニアルライグラス新品種「夏ごしペレ」藤森 雅博
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