農研機構技法No.14
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■ おわりに※2 受託加工 装置を持つ企業に食品を持ち込んで加工してもらうこと。食品加工装置は高価なので、特に中小企業の新規事業進出には便利。※3 断熱圧縮 物体の温度が上昇する程、断熱的に急激に圧縮して体積を小さくすること。数分間で600MPaまで圧縮する食品高圧加工では、食品に含まれる水の圧縮率が■を握る。断熱圧縮による加熱は、食品の初発温度が高い程大きく、低温では約2℃/100MPaのものが、約80℃以上では5℃/100MPaとされる。Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 81(4), 672-679.2)山本和貴(2020) 食品高圧加工における基礎及び応用に関する研究. 日本食品工学会誌, 21(1), 11-23.3)山本和貴(2013) 食品高圧加工の動向. ソフト・ドリンク技術資料, 171, 1-18.4)山本和貴(2019) 物理的微生物制御技術の今とこれから[7]圧力の利用:高圧加工による非熱的殺菌. 日本防菌防黴学会誌, 47(10), 415-422.5)Yamamoto, K. et al. (2021). Bacterial injury induced by high hydrostatic pressure. Food Engineering Reviews, 13, 442-453.6)山本和貴(2020) 損傷菌[12] 高圧損傷菌. 日本防菌防黴学会誌,48(4), 169-176.7)山本和貴(2017) 食品高圧加工における食品安全性確保. 食品と容器, 58(9), 530-537.8)森川篤史(2016) 中高圧処理(100〜200MPa)装置での有償加工. 食品と容器, 57(7), 410-414.9)中浦嘉子(2017) 中温中高圧加工した果実コンポート. 食品と容器, 58(8), 460-466. 10)山本和貴・小関成樹(2007) 第4回高圧バイオサイエンス・バイオテクノロジー国際会議:食品高圧加工技術の最新動向. 食品と容器, 48(3), 150-154.11)Balasubramaniam, V. M. et al. (2016) High-pressure processing equipment for the food industry. In: V.M. Balasubramaniam, G.V. Barbosa-Cánovas, H.L.M. Lelieved (Eds.), High Pressure Processing of Food, Food Engineering Series (pp.39-65). Springer.用語解説̶※1 非熱的殺菌(nonthermal pasteurization) 加熱、冷却などによる熱的殺菌(thermal pasteurization)が一般的であるが、圧力、薬剤、放射線など、熱を積極的に使わない手法による殺菌。参考文献̶1)Yamamoto, K. (2017) Food processing by high hydrostatic pressure. NARO Technical Report /No.14/202313特集 食品を科学する ■(食品研究部門 食品加工・素材研究領域 食品加工グループ)低減することが求められますので、食品高圧加工においても、処理コスト削減に向けた容器の大型化が重要です。容器大型化のためには、容器径または容器長を増す選択がありますが、容器径を増すと、指数関数的に容器壁を厚くする必要があり、材料だけでも大幅なコストアップになるので、装置製造コスト抑制のためには、容器長を増しての対応が理想的です。しかし、縦型で容器長を増すと、処理品が入ったバケット(かご)を、最低でも容器長の倍程度以上の高さから釣り上げて取り出さなければならず、天井の高さに制約される問題があります。一方、横型では、設置場所の最大長に応じて如何様にも容器長を増せる利点があるのですが、容器の開放時に圧力媒体の水をすべて取り出し、容器密閉時に水を再度大量に入れるという縦型では不要な操作が必要です。よって、横型では、圧力媒体圧入用ポンプ以外に、高速で圧力媒体を流入させる目的のポンプを併用することで、この問題点を解決します。横型食品高圧加工装置で最大の容器は、容量525Lであり、このうち6〜7割が処理可能量です。 食品高圧加工では、5℃近傍で600MPaを課す低温高圧処理が趨勢です。圧力保持時間3〜5分間でも、十分な微生物不活性化効果が期待できます。昇圧および減圧の際には、それぞれ断熱圧縮および断熱膨張による加熱および冷却があります。よって、高圧処理を実施する際には、循環恒温水などで制御、特に冷却することが、製品の温度管理上重要です。 食品産業界の特徴は、中小企業または小規模事業者の数が、全体の事業者数の99.7%を占めていることです。それ故に、食品高圧加工装置のような大規模な設備投資ができない企業が多く、受託加工(toll processing/tolling)が注目されています。装置のみを保有する企業が、食品企業から持ち込まれた包装食品を、一回処理当たり、kgなどの単位当たりなどで課金して処理する業態で、海外では益々広がりを見せています。事業者数および装置容量に限りはありますが、日本国内でも中高圧処理(100MPaまで)または高圧処理(600MPaまで)の受託加工が可能です。中小企業への食品高圧加工技術普及のためには、受託加工のさらなる普及が不可欠でしょう。 装置を導入して生産する場合、525L容器の大型装置を、5年償却として、容器充填率60%、16時間/日・300日/年稼動で用いた場合、処理コストは、0.071Euro/kg(約10円/kg:1Euro=137円で計算)と試算されます。8時間/日・200日/年稼動では、0.213Euro/kg(約29円/kg)です11)。食品高圧加工では、このように相応の処理コストが上乗せされますので、冷蔵輸送コストも考慮の上、単価が一定以上の製品に利用すると良いでしょう。 食品高圧加工は、実用化の用途が、ジュース、肉製品、総菜、開脱殻などと、些か限定的であり、熱加工に比べて研究開発の歴史も浅いのが現状です。発想を転換すると、未開拓用途および未解明現象が今後さらに見出されると期待できるとも言えましょう。今後の研究開発が世界で進展することにより、基礎および応用の視点から、技術がさらに発展することを期待しています。ご関心がある方は、ご遠慮なくお問い合わせください。

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