農研機構技法No.14
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LNBを利用する仕組み HMOの多くはヒトが持っている消化酵素によって分解■ ビフィズス菌が■ はじめにLNBの構造、および主なⅠ型HMOの模式構造LNBはⅠ型HMOの共通構造(赤色破線囲み)。図1NARO Technical Report /No.14/2023(ガラクトシル-β1, 3-N-アセチルグルコサミン)ガラクトースグルコースN-アセチルグルコサミンシアル酸フコース18NISHIMOTO Mamoru ヒトの母乳に含まれる糖質成分は乳児のエネルギー源として非常に重要な乳糖(以下ラクトース)が大半を占めています。また、ラクトース以外にも250種類以上の構造が異なるオリゴ糖が報告されていて、それらは総称してヒトミルクオリゴ糖(以下HMO)と呼ばれています。HMOはラクトースと異なり、胃や小腸では消化・吸収されず、大腸内に棲息するビフィズス菌などによって利用されていることがわかってきました。特に、ラクト-N-ビオースⅠ(以下LNB)は哺乳類の中でもヒトにしか見られない特徴的なオリゴ糖であり、このLNBを含むHMOはⅠ型と呼ばれています(図1)。このI型HMOを効率的に利用しているのが乳児の腸内細菌叢の主役となるビフィズス菌(以下乳児型ビフィズス菌)です。ラクト-N-ビオースⅠ(LNB)されにくいため、特定保健用食品の保健機能で腸内環境改善を謳う多くのオリゴ糖と同様に、消化・吸収されずに大腸に到達し、腸内細菌の■(エネルギー源)となります。LNBはガラクトースとN-アセチルグルコサミンがβ1,3-結合した2糖であり、やはりヒトの消化酵素では分解されません。しかしながら、乳児型ビフィズス菌はこの結合を分解し、LNBからガラクトース1リン酸とN-アセチルグルコサミンを生成する特異的な糖質加リン酸分解酵素※1を持っていることがわかってきました1)。また、ゲノム解析の結果、その酵素遺伝子周辺には、LNBの取込み、代謝に関連する酵素遺伝子群が存在しており、LNBの加リン酸分解で生じたガラクトース1リン酸を利用するだけでなく、遊離したN-アセチルグルコサミンも特別なリン酸化酵素の働きでN-アセチルグルコサミン1リン酸に変換して利用しています2)。これらの糖1リン酸は解糖系の出発物質であるグルコース1リン酸やグルコース6リン酸に容易に変換され、最終的に生体のエネルギー通貨と呼ばれるATPが作り出されます。つまり、乳児型ビフィズス菌はLNB分子を独占的に余すところなく利用し、乳児腸管内での寡占状態を実現していることが示唆されました。代表的なⅠ型HMO特集 食品を科学する ■ヒトミルクオリゴ糖主要構成成分の食品利用を指向した合成法  本 完

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