■ 限外ろ過処理 ■ ビフィズス菌によるLNB合成■ プロテアーゼ処理各種処理によるLNB生産性限外ろ過処理(UF)、プロテアーゼ処理(PR)、グルコアミラーゼ処理(GA)、原材料追加処理(SA)。(mM)0194250100150200250300350138254288UF+PR+GA+SA処理区図3未処理区UF処理区UF+PR処理区UF+PR+GA処理区LNB生産量NARO Technical Report /No.14/202320きょうざつぶつヒトミルクオリゴ糖主要構成成分の食品利用また、原材料の濃度を高く維持することで生成したLNBの分解を抑制し蓄積することができます。この反応液から副生成物などを取り除き、検証に必要な量のLNBを調製することができました4)。さらに、調製したLNBを用いた培養試験により、LNBがビフィズス因子として働くこと、ビフィズス菌の中でも特に乳児型ビフィズス菌の増殖を促進することを明らかにしました5)6)。このようなビフィズス菌増殖促進効果は食品として摂取することで、腸内での選択的なビフィズス菌の増殖による腸内環境の改善、特に乳児腸管内でのビフィズス菌占有率の向上が期待できます。 先に述べた酵素合成法はビフィズス菌由来の酵素を大腸菌に生産させた遺伝子組換え酵素を使用していました。この遺伝子組換え酵素はLNBを精製する際に除去されることから、最終製品であるLNBの中には存在し得ないのですが、日本国内における遺伝子組換えに対する受容度が低いことから遺伝子組換え技術に頼らないLNB製造法を開発することとしました。LNBの合成に必要な酵素は図2に示した4種類です。ビフィズス菌はそれら4種の酵素を持っていることから無細胞抽出液※2を調製し、LNB合成の原材料となるスクロースとN-アセチルグルコサミンを添加することによりLNBが生成します。ただし、LNBの生成量はごくわずか(19mM※3)です。その原因として考えられるのが、無細胞抽出液に含まれている多くの夾雑物によるLNB合成反応の妨害です。特に、糖質の代謝に関わる酵素群、ホスホグルコムターゼ(以下PGM)、フルクトース6リン酸ホスホケトラーゼ(以下F6PPK)、グリコーゲンホスホリラーゼ(以下GP)がLNB合成に必要なグルコース1リン酸を消費してしまい、LNB合成反応を妨害することがわかりました(図2下)。この妨害反応を回避する手段として必要な酵素だけを精製して使用することが考えられますが、精製にはそれなりのコストがかかってしまい、最終製品への価格転嫁が避けられません。したがって、精製酵素の使用は実用化を困難なものにしてしまいます。そこで本技術では、ビフィズス菌無細胞抽出液中の夾雑物を除去し、4種の酵素を選択的に残存させつつ妨害する酵素を失活させる簡便な方法について検討を行いました。その結果、後述する限外ろ過※4、プロテアーゼ※5、グルコアミラーゼ※6、原材料追加4処理により、効率的にLNBを合成する技術を開発しました7)。 ビフィズス菌の無細胞抽出液には細胞内に存在する様々な低分子化合物が含まれています。中でも、グルコース1,6-ビスリン酸、ATPはそれぞれPGM、F6PPKの反応に欠かせない低分子化合物です。そこでこれらを無細胞抽出液から除去することを目的として、中空糸膜{SLP-0053(分画分子量10,000)、旭化成}による限外ろ過を行いました。その結果、低分子化合物を除去した無細胞抽出液を用いたLNBの合成量は未処理区の約2倍の42mMにまで向上しました(図3)。 低分子化合物の除去だけでは阻害要因の排除が不十分だったため、次にプロテアーゼ処理を検討しました。プロテアーゼの種類によってタンパク質に対する感受性がそれぞれ異なることから、LNB合成に必要な4種の酵素活性は保持したまま、妨害するPGM、F6PPK、GPの活性だけを低下させる作用条件について、食品製造に利用されている8種のプロテアーゼを用いて検証しました。その結果、パンクレアチンを用いて47℃で1時間処理することで、LNB合成に必要な酵素の活性は十分に保持したまま、PGM、F6PPKの活性を1%以下に低下することができました(図4)。また、先述の膜ろ過処理に本プロテアーゼ処理を組み合わせることでLNB合成量は7倍の138mMにまで向上しました(図3)。
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