■ 餅の澱粉消化性について■ はじめに消化性による澱粉の分類Rapidly Digestible Starch(RDS)Slowly Digestible Starch(SDS)Resistant Starch (RS)ヒトの消化能力生理的機能口腔内と小腸で急速に消化急速なエネルギー源、急激な血糖値上昇緩やかで持続性のあるエネルギー源、緩やかな血糖値上昇食物繊維と同様の生理機能緩やかだが小腸で完全に消化小腸では消化されない表1NARO Technical Report /No.14/202326もち ごめつSASAKI Tomoko 糖尿病やその予備軍の方は年々増え続けており、食後の急激な血糖値の上昇を抑えるような食品、食品素材が求められています。一方で、私たちが主食として食べている米、麺、パンなどの食品は澱粉含量が高い上に、澱粉が加熱調理により消化されやすい状態(糊化)になっているため、エネルギー補給に適している反面、食後の血糖値が上昇しやすい食品として考えられています。食品に含まれる澱粉は消化性によって急速に消化される澱粉(RDS: Rapidly Digestible Starch)、緩やかに消化される澱粉(SDS: Slowly Digestible Starch)、および難消化性澱粉(RS: Resistant Starch)の3種類に分類されます(表1)1)。RSは小腸内で消化・吸収されないため、食物繊維と同様に健康の維持に役立つ生理作用を発現する成分です。SDSは完全に小腸で消化はされますが、消化速度が緩やかなために、急激な血糖値上昇を抑制し、最終的には小腸でグルコースとして吸収され、エネルギー源としても活用できます。そのため、特に澱粉を多く含む穀類や穀類加工食品を中心に、澱粉中のRDSを抑えてSDSを増やす食品素材や食品加工技術の開発が求められています。本稿では素材に着目した糯米の品種による餅の澱粉消化性の違いと、食品の添加剤に着目したパンの澱粉消化性について紹介します。 餅は消化のよい食べ物なのでしょうか。餅を食べた後、腹持ちがいいと感じる人もいれば、逆にすぐにおなかがすくと感じる人もいるようです。餅に含まれている澱粉の消化は、澱粉がどの程度強固に餅の構造に守られているかがポイントになります。澱粉はアミロースとアミロペクチンの2種類の高分子から構成されていますが、餅の原料である糯米はほとんどアミロースを含んでいません。アミロペクチンの中でも長い側鎖をもつものは、澱粉分解酵素の作用を受けにくい特徴がありますが、一般的にはアミロース含量の高い澱粉が消化されにくいことがわかっています。そのため澱粉特性から考えると、ほぼアミロペクチンから構成されている餅の澱粉は消化されやすいと考えられます。しかし餅については事例は少ないものの、特に高齢者の方がうまく噛めずに飲み込んだ場合、胃や小腸内で石のようにかたくなり、腸閉塞を引き起こすことがあると報告されています2)。これは餅を搗く過程で形成される強固なマトリックス構造内に包括された澱粉は、その構造が破壊されなければ消化酵素の作用を受けにくい状態であることが原因として考えられます。全く消化されないのは問題ですが、ある程度餅のマトリックス構造の強度を変えることによって、澱粉消化性を制御できる可能性が期待できます。そこで、テクスチャーに特色のある2種類の糯米品種を用いて、餅の澱粉消化性を比較しました。ひとつは加熱調理後もかたくてしっかりしたテクスチャーをもつ餅になる糯米と、もうひとつはやわらかくてよく伸びる餅になる特集 食品を科学する ■素材&加工法で澱粉消化性を制御佐々木 朋子
元のページ ../index.html#26