農研機構技報No.15
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従来型の遺伝子検査法 CSFVは一本鎖プラス鎖RNAウイルスであり、フラビウイルス科ペスチウイルス属に属します3)。ペスチウイルス属には、牛ウイルス性下痢ウイルス(Bovine viral diarrhea virus、以下BVDV)とボーダー病ウイルス(Border disease virus、以下BDV)が含まれ、それぞれ主に牛と羊に感染しますが、豚にも感染することがあります4)。CSFVゲノムの非翻訳領域の遺伝子配列は、この属のウイルスで高度に保存されており、ペスチウイルスの検出に適した標的となります5)。ペスチウイルス属のウイルスは抗原性が類似するため、蛍光抗体法(FAT)および抗原ELISAなどの抗原検査法ではCSFVをBVDVやBDVと明確に区別することは困難です。そのためCSFVを迅速かつ特異的に検出できる方法として、CSFV遺伝子に特異的に結合するプライマーおよびプローブを用いたリアルタイムPCR法が開発されているものの、国内での病性鑑定において実用に至っていませんでした6)。 ASFVは、アスファウイルス科アスフィウイルス属に分類される二本鎖DNAウイルスです7)。国際標準となる診断手法を収録した国際獣疫事務局のマニュアル8)には、推奨されるASFVの検出手法として、ウイルスが感染した細胞が豚の赤血球を吸着する現象を利用した赤血球吸着(HAD)試験、FAT、コンベンショナルPCR法、リアルタイムPCR法などが挙げられています。これらの検査法の中で、PCR法は現在、特に感染の初期段階でASFを診断するための最も検出感度※2の高い技術です9)。さらに、腐敗などによりHADやFATには適さない検体であっても、核酸の抽出・精製すること、およびPCR法を用いることでウイルス遺伝子の検出が可能です。■ 豚熱およびアフリカ豚熱ウイルスの■ はじめにNARO Technical Report /No.15/202410きょうざつぶつNISHI Tatsuya 豚熱(Classical swine fever、以下CSF)は2018年に26年振りとなる発生が国内で確認された後も終息を見ることなく続発しています。このCSFの感染拡大には、豚だけでなく、野生動物、特にイノシシが農場へのウイルスの侵入に極めて大きく関与していることが示唆されており、現在、豚・イノシシ双方への対応が重要課題となっています1)。一方、アフリカ豚熱(African swine fever、以下ASF)はCSFウイルス(CSFV)とは異なるアフリカ豚熱ウイルス(ASFV)による豚やイノシシの熱性出血性伝染病で、極めて高い致死率を特徴とします2)。現在、ASFの流行が世界的に進み、世界最大の養豚国である中国を含むアジアにも感染が拡大していることから、今後、日本への侵入も懸念されるため、空港検疫などの水際対策を強化する必要があります。 両ウイルスは豚に対して極めて病原性が高いことから、両疾病の速やかな摘発のため、農研機構の協力のもと、都道府県の家畜保健衛生所には遺伝子検査の体制が整備されています。しかしながら、豚およびイノシシの検査件数が日増しに増加する現状にあって、検査精度を維持しながらも、防疫措置の発動の要否を早期に判断でき、かつ検査者の労力低減に資する、迅速で省力的な遺伝子検査法の開発が求められています。そこで、農研機構とタカラバイオ株式会社は、現行の検査法における実用上の課題を克服すべく、新たな検査法の開発に取り組みました。本稿では、検体の簡易な前処理法と夾雑物による阻害を受けにくいPCR※1酵素を採用した増幅反応系を組み合わせることにより新たに開発した、CSFおよびASFの同時診断が可能なリアルタイムPCR検査法について紹介します。 特集 アニマルサイエンス ■豚熱とアフリカ豚熱の同時診断可能な遺伝子検査法西 達也

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