レポーター遺伝子の比活性*B*A■ 遺伝子多型の豚の疾患感受性への影響35030025020015010050020181614121086420図2NARO Technical Report /No.15/2024NOD2-2197一般的な豚NOD2遺伝子A→CTLR5-1205一般的な豚TLR5遺伝子C→T*、P<0.05豚のパターン認識受容体遺伝子の多型が病原体由来物質の認識に影響を与える例豚で一般的に見られる遺伝型のパターン認識受容体遺伝子について、一部の豚で観察される塩基に入れ替えた場合、病原体由来物質の認識に影響を与えるかどうかを調べています。調べたい塩基を入れ替えたパターン認識受容体遺伝子を、病原体由来の物質を認識すると活性化する遺伝子(レポーター遺伝子)とともにヒト培養細胞に導入し、レポーター遺伝子の働きを測定して塩基置換の影響を調べます。エラーバーは標準誤差を示しています。 ■NOD2遺伝子の2197番目がアデニン(A)からシトシン(C)に変わると、細菌由来の細胞壁を構成するペプチドグリカンの中の重要な構造であるムラミルジペプチドに対する応答が上昇します3)。 ■TLR5遺伝子の1205番目がシトシン(C)からチミン(T)に変わると、細菌のべん毛を構成するタンパク質(フラジェリン)に対する応答が低下します4)。NOD2遺伝子+ムラミルジペプチドTLR5遺伝子+フラジェリン19に、かつ迅速に反応する自然免疫系と呼ばれるあらかじめ用意された免疫応答のシステムの中でも重要な位置を占めるもので、獲得免疫系のシステムの効率的な発動にも関わっています。 パターン認識受容体をコード※1する遺伝子の多型は、ヒトやマウスを対象としたこれまでの研究から、PAMPの認識や、PAMP認識の後の細胞内のシグナル伝達などに影響し、病原体由来の物質への応答や、感染症への感受性を左右する可能性があることが知られています1)。 農研機構は、国際共同研究による豚ゲノム解析に参画するとともに、その結果を活用し、農場で飼育されている豚で、豚のパターン認識受容体のPAMP認識に関連する部分の遺伝子の配列の違い(塩基置換)を数多く発見しています2)。それらの塩基置換を再現した遺伝子を細胞に導入することで、病原体認識などの機能に影響を与えるものもいくつか見出しており、豚の抗病性改善のためのDNAマーカーとしての活用の可能性が期待されました3)4)(図2)。 豚の免疫系遺伝子の多型が、実験室内での効果だけでなく、実際に個体としての豚で感染症の感受性への関与を確認することが、豚の抗病性改良のためのDNAマーカーとして有用性を示す上で極めて重要です。農研機構では、PCV2と他の細菌の複合感染によるとみられる死亡例が多発した豚群において、パターン認識受容体の一つであり、細菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンの分子構造を認識するNOD2(nucleotide binding oligom-erization domain containing 2)をコードする遺伝子の2197番目(通常はアデニン(A))がシトシン(C)となるもの(NOD2-2197C)を持つ離乳後の子豚が、有意に死亡率が下がることを見出しています(図3)。NOD2-2197Cは、ペプチドグリカンの認識能力が向上していることが判明していますが3)、NOD2-2197Cを持つ子豚は、PCV2強毒株が農場でまん延している状況下では、そうでない場合と比較して成長が速いこともわかり、NOD2-2197の抗病性向上のためのDNAマーカーとしての有用性が示されました5)。その他、マイコプラズマ性肺炎や豚胸膜肺炎といった呼吸器系の感染症が流行している一般農場において、NOD2-2197Cを保有することにより、豚胸膜肺炎の重篤化が抑制されました(図4)。一方、細菌のべん毛タンパク質を認識するTLR5(toll like receptor 5)をコードする遺伝子の1205番目(通常はシトシン(C))が
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