農研機構技報No.16
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水田作 予測手法と精度 生育・収量予測の内容としては、①積算気温を基に回帰式を用いて生育ステージを予測する比較的シンプルなもの、②複数のパラメータからなるモデルを用いて予測するもの、③さらに、労務管理機能などを備えた支援システムと予測システムのアウトプットを連携するものや、施設の統合環境システムにフィードバックするものに分類できます。■ 生育・収量予測における資料:表1と同じ。なお、この表に記載する栽培支援システムは、現在は、(株)ビジョンテック社が農研機構から引き継いでSAKUMOとして有償で提供されています。   (https://sakumo.info)10%の増収および5%の高品質化に貢献栽培支援出穂期や成熟期を予測し、防除や収穫作業計画に反映作業計画生育予測成熟期の予測を行い、収穫スケジュールの作成に活用・水稲の栽培管理支援システムの発育予測、追肥診断機能を営農管理システム内で利用可能とし、データ駆動型生産に活用・出穂期予測の誤差は概ね4日以内の精度確認。追肥診断では、同等〜17%増収効果を確認・水稲の実際の出穂期(目視判断)は予測値と大きな相違はなく、適期に防除を実施・水稲品種「ひゃくまん穀」も同様に防除を適期に実施・「コシヒカリ」(V溝直播)の成熟期の予測結果に基づき収穫作業計画を策定。実際の出穂期(目視判断)は予測値と相違なかった・水稲の出穂日は推定日より約3日早くなった・フィールドサーバーで計測した気象データが、メッシュ農業気象データとほぼ一致したため、以降はフィールドサーバーに代わってメッシュ農業気象データを利用し、機器や通信料を節約水田作における営農支援システムの導入目的と実証結果区分対象作物実証地主な対象領域水稲(A)■城県水稲(B)石川県水稲(C)兵庫県導入目的実証結果NARO Technical Report /No.16/202416表2園芸作と水田作の効率的な作業計画策定を実現する営農支援システム機の稼働計画を策定することが重要になります。そのために水稲作では、GISデータとシステムにより予測された生育ステージを結びつけて、多数のほ場の収穫適期の順番を可視化することで作業の効率化を図るなどのシステムが構築されています。 水稲作であっても、野菜や果樹作でも、管理作業や収穫を適期に行うことによって品質が向上するとともに、良品率の向上を通じて収入が増加します。また、経営が大規模になるほど、適期に作業するためには事前にその時期を予測して作業計画を策定する必要があります。 特に、水田作においては、収穫量と品質の向上のために追肥(穂肥)のタイミングが重要になります。穂肥の適期は、品種によって多少の違いはありますが、ドローンによるセンシングも含めて、水稲の外観から判定するのは非常に困難です。そのため、適期に穂肥を行うためには作物の発育モデルなどを利用した幼穂形成期や出穂期などの生育ステージの予測が重要です。その際、主要な品種・作型については各都道府県やJAなどから情報提供が行われますが、晩植や直播など独自の作型をとる場合や、都道府県による情報提供の対象となっていない品種の場合には個別の予測が必要となります。 このような状況の下で、表2に示すように、水稲(A)の事例では、収穫量と品質を勘案して予測する穂肥の適期と推奨施肥量を施用することで最大17%増収しました。また、水稲(B)の事例では、品種と気象データに基づいて生育ステージを予測する栽培管理支援システムを利用し、「コシヒカリ」のV溝直播栽培での収穫適期予測による収穫作業計画を策定しています。加えて、水稲(A)ではさらに踏み込んで、生育予測システムのシミュレーションの結果を参照しながら、研究者や普及員が経験やノウハウに基づいてほ場別に品種構成や作型、肥培管理方法の改善提案を行っています。具体的には、実証経営体のすべてのほ場について作業日、資材使用量、水稲の発育ステージ、ほ場別収穫量、玄米タンパク含量、色彩選別やふるい選別のデータを収集し、収量が特に低いほ場を中心に解析を行って、品種構成や作型、肥培管理の改善提案を行うというものですが、このような品種配置や作付け順序の変更、晩植適性品種の導入などにより、実証経営体全体で20%の単収向上を実現しています。

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