当たり収量当たり利益・生産費・万円■ 今後の課題(万円/10a、千円/60kg)12.510.07.55.02.50.0参考文献̶1)清水ゆかり・石川哲也・梅本雅(2023) 大規模稲作経営の規模拡大と作業構造の変化 -100haを超える家族経営を事例として-. 農研機構報告14、19-28.(kg)55050045040035010a60kg当たり生産費・千円スマート農業の導入による稲作収入、水稲単収、米生産費の変化注:各経営の会計データに基づき作成。B経営は、2019年に法人化し、決算時期が7月〜6月となったため、2020年と2021年のみ示しています。10a当たり収入および生産費は、経営全体の収入および費目別経費を経営面積で割って算出(B経営は小麦も栽培しているが、その面積は限られているため、収入は実質的には稲作収入)。これらの事例は規模拡大が進んでおり、減価償却費の算出に当たっては面積増加の効果も含まれます。労働費は生産費調査の労働費と整合させるため、10a当たり稲作労働時間に賃金単価1,500円/時間を乗じる方式で計算しました。自動運転田植機は、追加投資とし、導入費用を600万円でA経営とB経営でシェアリングする、収量計測コンバインは、更新投資とし、追加経費は200万円という前提で計算しました。栽培支援システムの利用料金は年間3.3万円としています。直進アシスト田植機やドローンは自経営の経費で整備されているため、各経営の減価償却費に含まれています。ここでの生産費は「費用合計+地代」として計算しており、支払利子や自己資本利子は含んでいないため、全算入生産費と一致するものではありません。政府のKPIは、「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)において設定された生産費です。10.29.94964702019年2020年2021年10.59.410a当たり稲作収入4514492020年2021年9.95065048.17.010a当たり生産費3812019年2020年2021年5277.110a注1)スマート農機導入で機械費は増加するが、経営面積の拡大もあり、10a当たりの償却費は減少しています。NARO Technical Report /No.16/2024機械施設減価償却、修繕費労働費物財費地代・賃借料利益60kg当たり生産費10a当たり収量政府のKPIとして設定された米の全算入生産費(9,600円/60kg)A経営B経営C経営25(本部 みどり戦略・スマート農業推進室)特集 スマート農業の普及に向けて ■図3に、B経営やC経営では単収の増加もあり、米価の下落が収入減少に直結する事態が回避されました。 一方、10a当たり生産費は、省力化による労働費の削減や機械施設減価償却費・修繕費の減少注1)から低下しており、10a当たり利益は、横ばいからやや増加する傾向にあります。これらの事例は規模拡大が進んでいますので、例えば、C経営の5.3万円/10aの利益は、2019年から21年にかけての14haの面積拡大により、経営全体では約740万円の利益増加となったことを意味しており、この点で、大きな経済効果が生じたことがわかります。 また、B経営やC経営では、収量の増加もあり、図3に示すように60kg当たり生産費が減少しています。この生産費には支払利子や自己資本利子を含めていないため全算入生産費とは厳密には一致しませんが、日本再興戦略(2013年6月)においてKPIとして設定された米生産費の削減目標の水準である9,600円/60kgに対して、B経営やC経営の生産費はそれをさらに下回る状況にあり、高い生産効率が達成できていることを示しています。 今回、紹介した3つの経営は、いずれも大規模な水田作経営ですが、急速な面積拡大への対応(A経営)、非熟練労働力に対する能力養成(B経営)、規模拡大に伴う収量低下の回避(C経営)というように経営上の課題も異なり、それがゆえに、スマート農業導入に関わる重点も違っていました。用いたスマート農機など共通する部分はありますが、一般的な導入ではなく、経営にとって必要な機種の導入となったことが、費用対効果を高め、図3に示す経済効果を発現させた要因と言えます。 また、スマート農機の導入だけでなく、栽培方法の改善や農地の面的集積など農業生産基盤の改善も併せて進めたこと、さらに、C経営のように、データ活用によって大きな経済効果が生じたことが注目されます。スマート農業は、どうしても自動化や省力化が注目されがちですが、このような営農体系全体の再編やデータの活用そのものを進めていくことも重要です。そのためには、スマート農業に関わる情報提供についても工夫を行っていく必要があり、どのようなケースにおいて、どのスマート農機や技術の活用が有効になるかといった点について、引き続き解析を進めていきたいと考えています。
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