農研機構技報No.16
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注:シミュレーションは線形計画法を用いることとし、最適解の計算プログラムは農研機構が開発したXLPを利用しています。シミュレーション結果経営改善シナリオ面積拡大常時雇用(人)臨時雇用の導入売上高(万円)売上高−変動費(万円)固定費(万円)所得(万円)水稲(ひとめぼれ)(ha)水稲(ひめのもち)(ha)大豆(りゅうほう)(ha)経営面積(ha)現状技術現状現状(実績)(規模拡大)現状(20ha)可能5月と6月上旬に2人3,570.31,042.7413.0629.813.90.25.920.04,082.9 1,302.7 413.0 889.7 13.9 0.2 11.4 25.5 経営改善シナリオ1コンバインを収量計測コンバインに更新5haのみ可能4,309.21,422.0441.5980.513.90.210.925.0経営改善シナリオ2常雇を導入。自動操舵付きトラクターを追加購入、直進アシスト田植機に更新可能1人(非熟練者)5月に1人のみ雇用5,912.01,455.4413.01,042.521.50.213.335.0経営改善シナリオ3臨時雇用なしロボットトラクターを1台追加購入、臨時雇用導入ロボット田植機に更新 5月、9月中下旬臨時雇用なしに2人5,120.41,465.3625.1840.320.20.07.828.03,792.61,213.4625.1588.412.80.210.723.7NARO Technical Report /No.16/202436表3経営シミュレーションによる大規模家族経営の営農改善 このケースの試算結果を見ると(表3)、収量計測コンバインに更新することにより機械の購入代金が200万円(年減価償却費28.6万円)増加しますが、スマート農業実証の結果を参考に可変施肥により水稲収量が9%増加すると仮定すると、売上高の増加から所得は980万円と、現状(規模拡大)に比較して90万円増加するという結果となりました。地域条件として規模拡大可能な面積は5haまでという前提を置いているので所得の増加額はやや小さくなっていますが、こういったデータを活用して収量性の改善を図っていく試みは、規模拡大が難しい中山間地域などでは特に有効な方策になると思われます。 なお、今回の分析対象経営では、水稲は14haという作付面積のため、複数の品種構成としなくても適期内に作業できていましたが、より大面積を耕作しようとすると、品種数を多くし、作型や栽培方法も多様化させていくことが求められます。そのような経営では、収量計測コンバインのほ場別収量データと栽培支援システムを用いて品種・作型の組み合わせを変更していくことも、経営改善策として有効です。 経営改善シナリオ2は、自動操舵機能付きトラクターを1台追加購入するとともに、既存の田植機を直進アシスト田植機に更新し、省力化を図るというものです。トラクターの購入費用と、直進アシスト機能が追加された田植機に更新する経費が発生します。一方、このような自動操舵機能は非熟練者において特に有効であり、本来であれば作業時間が多くなりがちですが、非熟練者でも熟練者に近い作業能率・精度が発揮していけるようになります。そのため、ここでは、経験の少ない若い従業員を1人常時雇用し、これらの機械を活用して規模拡大を図るというシナリオを設定しました。 このシナリオでは、表3に示すように、所得が1,042万円と、今回の試算では最も多くなりました。常時雇用の賃金(年間350万円/人)や機械投資に関わる経費は増加しますが、労働力数の増加から経営面積が35haと、規模限界をさらに9.5ha拡大でき、売上げが増大します。今回の試算では、非熟練労働力も自動操舵機能を活用することで経営主と同じ時間数で作業可能という仮定を置いています。この点では経営全体として省力効果が生じるわけではありませんが、実態としては、導入効果は大きいと思われます。 最後に、経営改善シナリオ3として、地域条件として規模拡大は可能だが、人手不足から従業員の確保が難しい場合に、自動走行トラクターや自動運転田植機を用いて規模拡大を図ることで収益向上を図るという計画案を検討しました。オペレーターの役割を自動化農機に代替するという改善策です。その場合に課題になるのはスマート農機の価格ですが、ここでは、前述したように実証プロ

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