農研機構技報No.17
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■ おわりに※1 ステレオカメラ 奥行き情報を取得することのできるカメラの一種で、自動運転車の車載カメラなどに利用されている。2台のカメラが左右に並んだ構造をしていて、この2つのカメラで同時に対象物を撮影すると両者の画像間にずれ(視差)が生じる。カメラに近いものは視差が大きく、カメラから離れるほど視差は小さくなるため、この視差の大きさから三角測量の原理に基づいて対象物までの距離を算出することができる。※2 カルマンフィルタ 時間ごとに変化する対象の状態を、複数の情報(観測値と数理モデル)を用いて推定する手法。例えば一定速度で走る自動車の位置を予測する場合、運動方程式で予測する方法や測距センサーで観測する方法が考えられるが、いずれも誤差(地面との摩擦、エンジン出力の変動、センサーの観測誤差など)が含まれるため、真の値とのずれが生じる。カルマンフィルタの考え方は方程式による予測値をセンサーによる観測値で補正することでより正確な値を推定しようというもの。本研究においては、飛行パターンモデルでハスモンヨトウの位置を予測し、それをステレオカメラによる観測値で補正している。この処理を観測値が得られるたびに繰り返すことで、リアルタイムで正確な位置予測をすることができる。1)日本植物防疫協会(2008) 病害虫と雑草による農作物の損失.     https://www.jppa.or.jp/wpsite/wp-content/uploads/tecinfo/data/sonsitsu_2008.pdf (参照 2024-10-9)2)Sparks, T. C. et al. (2020) Insecticides, biologics and nematicides: Updates to IRACʼs mode of action classification - a tool for resistance management. Pesticide Biochemistry and Physiology, vol.167, Article 104587.3)西本麗(2019) 農薬産業の世界的動向. 日本農薬学会誌, vol.44(1), 5-14.4)Skendžić, S. et al. (2021) The impact of climate change on agricultural insect pests. Insects, vol.12(5), 440.5)Nishisue K. et al. (2024) Measuring the flight trajectory of a free- flying moth on the basis of noise-reduced 3D point cloud time series data. Insects, vol.15(6), 373.6)農研機構プレスリリース(2021-11-29) 害虫の飛行パターンをモデル化し3次元位置を予測 ­害虫を高出力レーザー等で駆除する技術開発に貢献­.   https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nipp/144889.html (参照 2024-10-9)虫の動きを追尾しながら狙撃(連続写真)図8ハウスでの狙撃の瞬間地面に落下NARO Technical Report /No.17/202521 自由に飛翔する害虫のレーザー狙撃が実際の栽培環境に近い条件で成功したことで、実用化に向けて大きく進んだと考えています。今後はレーザー狙撃による防除効果をハウス内、露地ほ場で確認するとともに、対象害虫の拡充も予定しています。ハスモンヨトウ以外の害虫種についても、飛翔データの収集と飛行パターンのモデル化によって同様の位置予測が可能になります。加えて、益虫を誤射しないよう、飛翔軌跡から害虫と益虫を区別できるアルゴリズムの構築も目指しています。 人に対する安全対策も重要です。例えばカメラに人が映ったらレーザー装置を強制停止する、そもそも作業者がいない夜間のみ稼働する、などの対策により、人への誤射が起きないようなシステムを作っていかなくてはなりません。 将来的にはレーザー狙撃システムを無人移動ロボットに搭載することで、人的労力ゼロで害虫を駆除できるシステムを実現したいと考えています。(植物防疫研究部門 基盤防除技術研究領域海外飛来性害虫・先端防除技術グループ)特集 AIの農業現場への実装をめざして □用語解説̶参考文献̶

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