農研機構技報No.17
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]mm [度深420-2-4■ リモートNMRと統合データベースおよび86420642 ]mm [度深2mmテナガエビコガネムシ科ケブカアカチャコガネのNMRイメージング画像(左)とテナガエビ科スジエビのSMOOSY疑似スペクトル画像(右)※NMRイメージング画像は参考文献4の図1を一部改変して転載。SMOOSY疑似スペクトル画像は参考文献5の図2を一部改変して転載 (クリエイティブ・コモンズ 表示4.0国際ライセンス https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ の下に提供されています)農業・食品データサイエンスを加速させるNMRメタボロミクス研究基盤技術の開発頭部胸筋尾部消化管背側腹側MRI計測用試験管NARO Technical Report /No.17/2025NMR計測用試験管消化管横緩和時間[秒]成熟卵2mm成熟卵遅い分子拡散係数 [log(m2/s)]-9.6尾部頭部速い-9.2-8.8-2-4-6135化学シフト [ppm](分子組成情報)プロトン密度像コガネムシ図2縦緩和強調画像横緩和強調画像MRI信号強度[a.u.](□10,000)縦緩和時間[秒]成熟卵28NMRイメージング画像SMOOSY疑似スペクトル画像のように農産物や食品の物理的構造を直接観察している訳ではない点には留意が必要です。図2(左)は、サトウキビ害虫であるコガネムシ科ケブカアカチャコガネ(Dasylepida ishigakiensis)の性成熟の識別法を検討した結果で、縦緩和時間(T1)強調画像により、生体へのダメージが少ない短時間の計測(13□C、計測時間約2分)で迅速に成熟卵を識別できることがわかりました4)。このことから、外観からはわからない試料内部の変化を観察することで、交尾行動の攪乱による害虫防除法の開発などへの応用が期待されています。 前述の通り、NMRおよびNMRイメージングで取得が可能な情報としては、分子組成情報(化学シフト)、分子の相対的存在量(NMR信号強度)、物性情報(分子の拡散係数と磁気緩和時間)、位置情報があります。伊藤らはこれまでに、これらの情報を一括で取得できる空間分子動力学的順序分光法(Spatial MOlecular-dynamically Ordered SpectroscopY、SMOOSY)を開発しました5)。SMOOSYでは、分子の拡散現象もしくは磁気緩和現象と位置情報をそれぞれのスペクトル次元に展開させつつ、各成分由来のNMR信号を観測することで、分子組成情報・位置情報・物性情報の相関を持つ3次元のNMRスペクトルが得られます。また、3次元のNMRスペクトルでは直感的な解釈が難しいため、2次元NMRスペクトル上のNMR信号検出位置に代謝物の磁気緩和時間や自己拡散係数をマッピングし画像化する疑似スペクトル画像法により2次元化します。実例として、インタクトなテナガエビ科スジエビ(Palaemon sp.)についてSMOOSYの計測を行い、疑似スペクトル画像処理した結果を図2(右)に示します。ここでは、分子組成情報(化学シフト)が横軸、位置情報(体内における深度)が縦軸のNMRスペクトル上に、物性情報(分子拡散係数)を表示のカラースケールでマッピングしています。ドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic Acid、DHA)やエイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic Acid、EPA)といった脂質は体全体に分布していますが、スジエビの殻を構成するキチンといった硬い性質を持つ高分子との相互作用や分子群が密な状態で存在しているために分子運動の違いが生じ、分子拡散係数は尾部から頭部に向かって低くなっていました。また、タウリンやベタインなども深度全体に分布していますが、分子拡散係数は空間的な変化が見られないことから、別の成分とほとんど相互作用せず、遊離状態で存在していることがわかりました。今後、これらのNMRやNMRイメージングから得られたデータを蓄積し、AIによる解析を行うことで、農産物の病害判定や食品の部位ごとの食感・呈味評価につながることが期待されます。 農研機構では、NMRを用いた農業・食品メタボロミクス研究を促進するため、NMRリモート共用システムとNMR分光データ解析パイプラインを連携した新たな分析・情報連携基盤システムの開発と運用を行っています(図3)。一般的に、NMRを含めた分析装置は制御用PCを直接操作するのに対し、NMRリモート共用システムでは、接続用PCがインターネット環境下にあればどこからでもNMR計測が可能となります。さらに、長時間連続稼働が可能な自動前処理装置を導入し、均質かつ均一なサンプル調製を可能とするとともに、リモートNMR計測が可能なNMR装置に スーパーコンピュータの連携

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