せいめい一番茶園相2019年4月23日撮影。鹿児島県南九州市現地実証茶園でトンネル被覆による棚がけ被覆栽培を行った。図1の他の煎茶品種26%、碾茶品種17%ですが、いずれも育成者権が切れており、海外での生産を法的に規制することが難しくなっています。 そこで、農研機構は、新たに抹茶・粉末茶に適した新品種「せいめい」を育成し(図1)4)、公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会(JATAFF)の助成により、日本の茶品種として初めて、海外5カ国(オーストラリア、ベトナム、韓国、EU、中国)において品種登録出願を行いました。これにより、「せいめい」の育成者権保護と同時に、「日本の抹茶」として海外輸出できる環境整備を進めています。 本稿では「せいめい」の基本特性、抹茶の原料である碾茶への栽培・加工適性について紹介します。■ 「せいめい」の基本特性 「せいめい」は多収で耐寒性が強い「ふうしゅん」を種子親、早生で高品質な「さえみどり」を花粉親として、1992年に交配した実生群の中から選抜されました4)。「せいめい」は新芽の緑色が美しく、製茶品質が優れることから、「清らかなお茶」の意味で清らかの「清(せい)」とお茶を表す「茗(めい)」を組み合わせて「せいめい(清茗)」と命名され、2020年3月30日に品種登録されました(第27874号)。育成者権は登録日から30年間保護されます。 「せいめい」は日本の主要品種である「やぶきた」が栽培可能な関東以南の主要な茶産地で栽培できるため、栽培適応範囲は広いといえます5)。「せいめい」の樹姿は“やや直立型”、樹勢は“やや強”で一番茶の芽揃いが優れる育てやすい品種です5)。育成地である鹿児島県枕崎市■ はじめに 抹茶は日本文化を象徴する伝統的な食品であり、国内外で急速に需要が拡大しています。これは、外資系企業の抹茶アイスクリームや抹茶ラテの上市がもたらした「抹茶ブーム」に起因します1)。2019年の日本茶海外輸出総額の約6割が粉末状の茶(抹茶と粉末茶)です2)。ただし、抹茶と粉末茶は製法が全く異なります。遮光資材により日光を遮って覆い下栽培(被覆栽培)された茶葉を摘採し、碾茶機などで揉まずに乾燥させて作った碾茶を、石臼などで微粉末化したものが抹茶であり、茶種に依らず、茶を粉砕機などで粉末にしたものが粉末茶です3)。碾茶の生産量は2008年から2018年の間で約2倍に急増しており、碾茶から加工された抹茶の約95%は食品加工用として用いられます1)。抹茶は国際的な認知度が高まっており、海外需要は今後も増加が見込まれることから、中国など海外の茶生産国でも抹茶が生産されるようになりました。 碾茶の生産量日本一の京都府における一番茶碾茶の品種構成は、栄養系品種※195%、在来種5%です1)。栄養系品種の内訳は煎茶用品種「やぶきた」が52%、そてんちゃ14海外需要が高い抹茶・粉末茶に適した緑茶用新品種「せいめい」 NARO Technical Report /No.7/2020吉田 克志YOSHIDA Katsuyuki特集 品種開発Ⅱ 3
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