「せいめい」(左)および「やぶきた」(右)の抹茶の泡色図5「せいめい」と「やぶきた」の碾茶および抹茶図4せいめい碾茶抹茶やぶきた■ 「せいめい」普及の期待 「せいめい」は2020年に品種登録され、育成者権が30年保護されており、海外で品種登録出願を行った初めての茶品種です。「せいめい」はうま味が強く、渋みが少ない、濃鮮緑の色合いで、良質な抹茶が製造できます。さらに、日本茶の海外輸出では、茶の残留農薬基準値が輸出相手国ごとに異なる点が非関税障壁となっていますが、「せいめい」は、抹茶の主要輸出先である米国およびEUの残留農薬基準をクリアできる防除暦が提示されており5)、海外輸出向けの抹茶の栽培・加工において他品種に比べ優位性を発揮できます。現在、海外で引き合いの多い有機栽培抹茶の生産を行っている生産者の協力を得て、「せいめい」の現地実証試験を行っており、有機栽培碾茶への適性を評価する取り組みを行っています。「せいめい」は煎茶、釡炒り茶、玉緑茶、かぶせ茶、玉露などの多様な茶種においても品質が良いという結果も示されているので、汎用性にも優れた品種といえます5)。「せいめい」の茶苗は、2020年10月現在、13の種苗取り扱い業者・団体に許諾され、販売されています5)。 農研機構は、九州沖縄経済圏スマートフードチェーンプロジェクトの一環として、有機栽培茶園面積が全国で最も広く、緑茶の輸出を勢力的に推進している鹿児島県に協力し、新品種「せいめい」の普及拡大に取り組むことになりました。「せいめい」の導入により、高品質な日本茶の安定生産と高品質抹茶の輸出拡大など、生産者の収益向上も期待されます。■ おわりに 「せいめい」の普及は始まったばかりで、市場での流通や日本茶海外輸出の促進に貢献するには、いま少し時間が必要です。「せいめい」は実需者や消費者のニーズに合致した新品種で、21世紀の日本茶業を担う新たな「柱」として有望です。今後も農研機構は、21世紀の日本茶業の活性化に資する新品種の育成を進めます。 「せいめい」の育成ならびに栽培・加工試験は、農研機構を代表機関とした宮崎県、埼玉県、静岡県、滋賀県、長崎県、大分県、鹿児島県、福岡県、京都府、佐賀県、三重県および奈良県の公設茶業研究機関および日本製紙株式会社によるコンソーシアムで、農研機構生物系特定産業技術研究支援センターイノベーション創出強化推進事業26099C(2014~2018年度)の助成を受け実施しました。(果樹茶業研究部門 研究推進部)用語解説̶※1 栄養系品種 母樹から挿し木による増殖(栄養繁殖)が行われ栽培される品種。これに対し、種子から栽培されるのが在来種である。※2 かぶせ茶 本試験では碾茶栽培に準じて18日間茶樹を直がけ被覆栽培し、かぶせ茶を製造、品質・成分を調査した。参考文献̶1)桑原秀樹(2019) 増補改訂 宇治抹茶問屋4代目が教えるお抹茶のすべて. 誠文堂新光社, 東京, pp.10-28.2)日本茶輸出促進協議会(2020) 2019年1月~12月 日本茶輸出実績について. http://www.nihon-cha.or.jp/export/news/2020/news200131.html3)公益社団法人日本茶業中央会(2019) 緑茶の表示基準. http://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf4)吉田克志ら(2018) 煎茶、かぶせ茶、抹茶および粉末茶向け緑茶用新品種‘せいめい’.農研機構報告 果樹茶部門,2:61-81.5)農研機構(2020) 海外需要が拡大する抹茶・粉末茶に適した新品種「せいめい」栽培・加工技術標準作業手順書 公開版. http://www.naro.arc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/136441.html17NARO Technical Report /No.7/2020特集 品種開発Ⅱ 3
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