農研機構技報No.7
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●■ロボット農機利用で必要な性能の評価 農地の観測やロボット農機の運用には、ほ場内の正確な位置を把握する必要があります。また航法センサとしては、機体の位置に加え機体の傾きや進む方向を知る必要があり、実際の航法装置では、それぞれRTK-GNSS装置、GNSSコンパスおよび慣性計測装置(IMU, Iner-tial Measurement Unit)などを使い、機体の位置、姿勢、方位情報を取得して制御に利用しています2)。 今回の評価対象である低価格GNSSとしては、u-blox社製の多周波対応受信機ZED-F9P搭載モジュールに、ZHEJIANG JC Antenna社製GNSSアンテナJCA228を接続する構成としました。表1に示す対照機と基準機を利用して比較試験を行いました。なお、ロボット農機への適応性の検証では、農研機構で開発したロボットトラクタ(ベース車両:井関農機(株)TJV85)を利用しました。●■測位の精度と安定性 RTK測位では、移動局受信機が固定基準局や仮想基準点(VRS, Virtual Reference Station)から補正情報を受信することで測位精度の向上を実現していますが、固定基準局から移動局までの距離(基線長)が長くなるにつれて精度が低下する傾向があります。そこで、短基線(基線長0.5km以内)と長基線(同約9km)の位置補正情報配信条件において測位精度を計測しました(使用基準局等は表1を参照)。評価に要した計測時間は、静的条件では24時間、ロボットトラクタに搭載した動的条件では各試験区における実験用車両の走行時間としました。●■はじめに GNSS※1装置(アンテナおよび受信機)の利用は農業分野でも一般的になってきています。例えば、リモートセンシングで取得した画像データに、ほ場などの位置や距離を特定するために地理座標を与えるためのジオリファレンスデータの取得のほか、トラクタや田植機などの農用車両の運転アシストや、ロボットトラクタなどのロボット農機の自動走行における航法センサとしても広く利用されています。運転アシストやロボット農機の航法センサには、誤差数センチ以内の精度が求められるため、高精度なRTK※2測位に対応したGNSS装置の利用が必須ですが、測位精度や測位の安定性の高い多周波対応RTK-GNSS装置は高価であるという課題がありました。このような課題に対して、比較的安価な1周波のRTK-GNSS受信機をベースとした農機用航法センサで水平位置精度2cm、高さ精度4cmの性能を達成した開発事例1)もありましたが、電源投入から高精度測位開始までに約2分を要するなど、初期化時間や安定性については多周波対応RTK-GNSS装置には及ばない結果となっていました。 近年のGNSS測位技術の進展は目覚ましく、低価格でありながら多周波のRTK測位に対応したRTK-GNSS装置(以下、低価格GNSS)が普及し始めていますが、実際の農作業環境下での低価格GNSSの性能評価結果についての報告事例は多くありません。そこで、農機分野での利活用を見据えて低価格GNSSの性能を評価するとともに、航法センサとして適用性を、ロボットトラクタに搭載し自動作業を実施して検証しましたので、その結果を紹介します。30NARO Technical Report /No.7/2020低価格多周波GNSS装置の性能評価とロボット農機への適用可能性ヌウェン・ヴァン・ナン 林 和信  趙 元在NGUYEN Van NangHAYASHI KazunobuCHO Wonjae

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