農研機構技報No.7
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ダイコンの品種とグルコラファサチン濃度野菜花き研究部門での栽培データ(2015年度)図1020406080100140120160*辛味199*ねずみ辛味大根*スサノオ信州地大根*親田辛味大根亀戸二年子練馬丸尻方領大蔵在来耐病総太りいいずな青大根コウシンダイコングルコラファサチン濃度品 種(μmol/g 乾物重)*印の品種は辛味大根として販売されている品種を示す下線の品種は農研機構 遺伝資源センター保存の固定品種■ グルコラファサチン:においの原因物質 ダイコンのたくあん臭や黄変はなぜ発生するのでしょうか? その原因となる物質はグルコシノレート※1の一種であるグルコラファサチンであることが知られています1)。グルコラファサチンは調理によりダイコンの細胞が壊れると、辛味成分の一つであるラファサチンへと変化します。グルコラファサチンの含量には明瞭な品種間差がみられ、例えば辛味大根に分類される品種は、一般的な青首品種※2である「耐病総太り」の約2~4倍のグルコラファサチンを含んでいます(図1)。辛味成分のラファサチンは非常に不安定で、加工品中では水との反応過程で■ はじめに ダイコンは古事記(712年編纂)にも記載があるように、日本で古くから親しまれてきた野菜の一つです。江戸時代には日本各地の気候に適した地方品種が数多く誕生し、例えば、根の直径が30cmにもなる「桜島大根」、長さが2m以上になる「守口大根」、葉を食べる「小瀬菜大根」など多様な品種が現在も利用されています。今日では年間を通して安定した需要があるため各産地の栽培体系に適した品種開発が進み、「野菜品種名鑑」(日本種苗協会、2019年)に記載されている品種数は734点に上ります。 国内におけるダイコンの栽培面積は減少傾向にありますが、バレイショ、キャベツに次ぐ第3位の面積(31,400ha)で生産されています(野菜生産出荷統計、2018年 農林水産省)。またダイコンは収穫物の約60%が加工・業務用途として消費されており、漬物や刺身用のつま、大根おろし、おでんなど様々な用途で利用されています。代表的な加工品の一つである漬物については、特にたくあん漬の消費が年々低下しており、この30年間で約80%も減少しています。従来、たくあん漬の香りは好ましいものと捉えられていましたが、最近では消費者の嗜好性の変化に伴い、そのにおいが敬遠されることが一因と考えられます。また、加工用途での需要が多い冷凍大根おろしでは、保存期間中にたくあん臭や黄色への変色(黄変)が発生するなどの品質低下が、大きな問題となっています。そこで、農研機構では、においや黄変の原因となる物質に着目した成分育種を実施し、これまでにないフレッシュ感のある加工にも向くダイコン品種を育成しました。柿崎 智博 石田 正彦KAKIZAKI TomohiroISHIDA Masahiko6においや黄変が発生しないダイコン新品種の育成NARO Technical Report /No.7/2020特集 品種開発Ⅱ 1

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