「だいこん中間母本農5号」の特性図2◀「だいこん中間母本農5号」 の草姿▲一般品種(左)と 「だいこん中間母本農5号」(右) の加工品 (奥は大根おろし、手前はたくあん漬)品種グルコシノレート含量(μmol/g 乾物重)グルコエルシングルコラファサチンだいこん中間母本農5号西町理想耐病総太り11.21.00.2検出限界以下54.041.4「だいこん中間母本農5号」のグルコシノレート含量表1野菜花き研究部門での栽培データ(2009年度)メタンチオール(たくあん臭の主成分)や黄色の色素に変化します。つまり大根おろしの辛味や、たくあん漬のにおいと色の元となる物質はグルコラファサチンであると言えます。カブの千枚漬が長期間保存しても白いのは、カブにはグルコラファサチンが含まれていないためです。■ 「だいこん中間母本農5号」の育成と GRS1遺伝子※3の発見 これまでグルコラファサチンを含まないダイコン品種は知られていませんでしたが、国内外のダイコン遺伝資源約600点のグルコシノレート組成を分析したところ、埼玉県の地方品種である「西町理想」にグルコラファサチンをほとんど含まない、欠失性の個体が存在することを発見しました2)。興味深いことに、この個体はグルコラファサチンではなくグルコエルシンと呼ばれる別種のグルコシノレートを主成分としていました。グルコエルシンは辛味成分であるエルシンに分解されますが、その後の反応でたくあん臭や黄色の色素を発生させません。そのため、この形質を利用することでこれまでにないダイコン加工品が創出できる可能性が出てきました。そこで、グルコラファサチン欠失性という形質をダイコン育種に利用しやすくするため、根形の向上や辛味を抑えるために総グルコシノレート量を低くする選抜を行い、育種素材である「だいこん中間母本農5号」を育成しました3)(図2)(表1)。その後の研究により、「だいこん中間母本農5号」では、グルコエルシンをグルコラファサチンへと代謝する酵素をコードするGRS1遺伝子に変異があるため、その代謝が進まないことがわかりました4)。 「だいこん中間母本農5号」を原料にして漬物を試作したところ、黄変せずに白さを保った漬物ができあがりました。また、たくあん臭も感じられず収穫時のフレッシュ感を維持していました(図2)。そこで、2014~2017年度に農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業のサポートを受け、渡辺農事株式会社と共同で「だいこん中間母本農5号」のグルコラファサチン欠失性を持ちつつ、収量性や収穫物の形態など、実用形質を改良したダイコン品種の育成に取り組みました。その過程ではGRS1遺伝子の変異を簡便に判別できるDNAマーカー※4を利用しました。従来の育種法でグルコラファサチン欠失性を導入するには、複雑な工程と時間を要するグルコ7NARO Technical Report /No.7/2020ダイコンの花「令白」
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