農研機構技報No.8
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スマートフォンで排水処理施設の水質を遠隔監視図9BOD監視システムにより排水処理施設の曝気※4時間をBODの値に応じて制御して、浄化性能の向上と省エネを同時に達成する新しい排水処理法を実現できます。近年、畜産業から発生する排水中の窒素(硝酸性窒素など)に対する暫定排水基準※5が厳しくなる傾向にあります。本技術は排水処理での曝気制御により排水から窒素を取り除く反応を促進することが可能で、放流基準を定めた法令対応にも役立つと期待されます。BOD監視システムは2021年の前半に市販化の予定です。 本装置によるBODの測定は公定法に代わるものではありません。水質汚濁防止法に定められている年1回以上の測定義務では公定法による測定が必要になりますが、BOD監視システムの導入には、排水処理施設が適正に設計・運転管理されている必要があります。■ おわりに 発電細菌を活用したバイオデバイスの開発が本格的に始まったのは2010年代からです。歴史は浅く、発電細菌には大きな可能性が残されています。これまでの研究開発では、大規模な発電を行うことに重点が置かれてきました。発電細菌には、発電力は低いが有機物が供給されれば、ほぼメンテナンスフリーで半永久的に電流を生み出すという特性があります。今後はその性質を巧みに利用して、新たな用途での活用がより重要になると考えられます。発電細菌の利用では「低コスト」であることが特に重要であり、斬新かつ実践的なアイデアが必要です。(畜産研究部門 畜産環境研究領域)付記:BOD監視システムは、農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」の支援を受けて開発されました。用語解説̶※1 嫌気性(けんきせい) 酸素(空気)が存在しない環境を嫌気と言います。嫌気環境を好み酸素があると増殖できない細菌グループは、嫌気性細菌と呼ばれます。※2 バイオ電池 生物の一部または個体を利用して電気を生み出す装置です。タンパク質(酵素)を利用したものや細菌そのものを利用したものなど、様々なバイオ電池が研究されています。本稿のバイオ電池は様々な種類の発電細菌群から構成されるバイオフィルムを利用したもので、微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell; MFC)とも呼ばれます。※3 BOD 生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)のことで、微生物が分解できる有機物の量を反映しています。一般的には水の汚れを示す指標として用いられ、排水浄化処理や河川の水質管理において重要な測定項目です。BODの値が高い程、水は汚れていて、BODの値が低い程、水はきれいであると判断されます。※4 曝気(ばっき) 浄化槽に大量の空気を注入する操作です。微生物が排水中の有機物を分解してBODを減少させるためには、曝気が必要です。曝気には大量の電力が消費されており、排水処理施設のランニングコストの多くを占めています。本システムはBODが基準値以下まで低下した時、曝気を停止させて消費電力を削減して省エネにする制御が可能です。※5 窒素(硝酸性窒素など)の暫定排水基準 排水中に含まれている窒素は湖沼の富栄養化の原因であり毒性もあることから、適正に除去した後、放流する必要があります。水質汚濁防止法では排水中の硝酸性窒素など(アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物および硝酸化合物)を一律排水基準である100mg/L以下に規制しています。畜産業を含む11の業種には暫定の排水基準が定められています。この暫定排水基準は3年ごとに見直しが行われます。畜産業に対しては、2019年7月から600mg/Lから500mg/Lに引き下げられました。今後、この暫定排水基準はさらに厳格化される可能性があります。畜産業を持続的に行うためには強化傾向の排水基準をクリアできる浄化施設の整備が必須です。参考文献̶1)横山浩ら(2020) 微生物燃料電池用電極の製造方法.特許第6429632号. 2)Yamashita, T. et al. (2016) Enhanced electrical power generation using ame-oxidized stainless steel anode in microbial fuel cells and the anodic community structure, Biotechnol. Biofuels, vol.9, 62. 3)Yamashita, T. and Yokoyama, H. (2018) Molybdenum anode: a novel electrode for enhanced power generation in microbial fuel cells, identied via extensive screening of metal electrodes, Biotechnol. Biofuels, vol.11, 39.4)横山浩ら(2016) 炎酸化ステンレス鋼負極は微生物燃料電池の発電を促進させる. 農研機構 研究成果情報.                    http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nilgs/2016/nilgs16_s09.html (参照 2021-2-1)5)Yamashita, T. et al. (2019) Ultra-low-power energy harvester for microbial fuel cells and its application to environmental sensing and long-range wireless data transmission, J. Pow. Sources, vol.430, 1-11. 6)横山浩ら(2019) CO2センサーを駆動できる初めての微生物燃料電池システム. 農研機構 普及成果情報.                      http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nilgs/2019/19_026.html (参照 2021-2-1)7)横山浩ら(2020) 微生物電解セル.特許第6327718号. 8)Yamashita, T. et al. (2016) A novel open-type biosensor for the in-situ monitoring of biochemical oxygen demand in an aerobic environment, Sci. Rep.6:38552 9)横山浩ら(2018) 排水処理に役立つBOD(生物化学的酸素要求量)監視システム. 農研機構 普及成果情報.                      http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nilgs/2018/18_022.html (参照 2021-2-1)13NARO Technical Report /No.8/2021

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