蛍光を発する組換えシルク様々な蛍光タンパク質の遺伝子を導入することにより、カラフルな蛍光シルクが作り出されます。ブラックライトを当てると蛍光物質だけが発光します(右の写真)。図1 生体内に侵入した異物(抗原)に働く抗体※2は特定の種類のタンパク質などに特異的に結合する性質を持つことから、基礎研究や医療に至る幅広い分野で利用されています。抗体はこれまで、抗原となるタンパク質やペプチドをマウスやウサギなどの動物に接種し、動物の体内で作られた抗体を回収して利用してきましたが、近年の動物愛護の観点から代替方法が求められ、遺伝子工学の進歩により抗体の遺伝子を導入した培養細胞から抗体を作ることができるようになりました。しかしながら製造コストの高さが問題となっており、より低コストの抗体産生技術が求められました。 本稿では、低コストで優れたタンパク質生産系である組換えカイコを用いて、特定のタンパク質に結合する抗体特有の性質(アフィニティー)をシルクに付加した新規シルク素材「アフィニティーシルク」※3についてご紹介します。■ はじめに カイコが吐くシルク(絹)はフィブロイン※1(繊維タンパク質)とそのまわりを覆うセリシン(糊状タンパク質)の2種のタンパク質で構成されています。カイコは孵化してから約3週間で体重を1万倍に増やし、およそ3gの幼虫が300~500mgのタンパク質を合成して繭を作ります。カイコは優れたタンパク質生産系として注目され、2000年に農研機構(当時は、蚕糸・昆虫農業技術研究所)によりカイコの遺伝子組換え技術が確立されました1)。他の生物由来の遺伝子を導入した遺伝子組換えカイコ(以下組換えカイコ)を作出することにより、医薬品・検査試薬・化粧品の原料として利用できる有用タンパク質をカイコで生産することが可能となりました。また新しい機能を持ったシルクの創出も可能となり、例えばクラゲやサンゴ由来の蛍光タンパク質とフィブロインとの融合タンパク質を産生する組換えカイコからは蛍光を発するシルクを作出することができます(図1)。まゆ佐藤 充SATO Mitsuru 抗体活性を持つ新しいシルク素材「アフィニティーシルク」の開発14NARO Technical Report /No.8/2021
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