一本鎖抗体のデザイン抗体はそれぞれ相同な2本の重鎖と軽鎖が分子内結合により組み合わさり、Y字の構造をとっています。この中の重鎖と軽鎖の可変部(VHとVL)が対となり、抗原を認識して結合します。この抗原認識に必要なVHとVLをつないで低分子化したものを一本鎖抗体(scFv)と呼びます。図2一本鎖抗体とフィブロインL鎖の融合タンパク質からなるアフィニティーシルクアフィニティーシルクではscFvがフィブロイン繊維の内側および表面に多数存在すると考えられます。図3VHVL可変部(variable region)定常部(constant region)一本鎖抗体(scFv)(30kDa)軽鎖重鎖抗原結合部位完全長抗体(150kDa)scFvフィブロインセリシン■ アフィニティーシルクのデザイン 遺伝子組換え技術により、抗原の特異的認識に関わる抗体の重鎖および軽鎖の可変領域(VHとVL)をつないだ一本鎖抗体(single-chain variable fragment: scFv)がデザインされました。この一本鎖抗体は分子量が約30kDaで、完全長抗体(約150kDa)と比べて非常にコンパクトな形状をとり(図2)、一本鎖抗体のもととなる抗体とほぼ同等の抗原認識、結合能を持つことが確かめられました2)。 一方、前述したカイコの遺伝子組換え技術により、抗体を融合したシルクタンパク質の生産が可能となりました。ただし、完全長抗体を融合させたシルクを作製する場合の問題点として、抗体活性に必要な正しい立体構造をとることが困難であると考えられました。シルクタンパク質は高度に繊維化された構造体です。シルクタンパク質の繊維化プロセスにおいては、完全長抗体の正しい立体構造をとるために必須な分子内結合ができないため、抗体活性をもつことができません。そこで抗体に関しては、抗体の分子内結合を必要としない一本鎖抗体を選択し、それをシルクタンパク質の中で比較的親水性が高く、他のタンパク質との融合発現実績があるフィブロインL鎖タンパク質に発現させることとしました(図3)。 これまでにカイコを利用した組換え抗体生産に関しては、組換えバキュロウイルスを用いた抗体遺伝子導入による発現や組換えカイコにより抗体をセリシン層に発現させ、回収する方法がすでに報告されていました。しかしこれらの技術は抗体をタンパク質として単独で発現させて回収することに注目した技術であり、抗体活性を付加した機能性シルクタンパク質の製造という概念とは全く異なります。15NARO Technical Report /No.8/2021
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