農研機構技報No.8
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熱交換特性の比較図80.0500.10.150.20.250.3(kW/(K•m2))0.2550.2420.1000.0170.010土中設置(スリンキー式)土中設置静水中設置(流速0m/min)流水中設置(流速10m/min)+遮断板流水中設置(流速10m/min)熱交換特性約15倍約2.5倍置0.010kW/(K・m2)の約25倍の高い性能が得られることがわかりました(図8)。シート状熱交換器を流水中に設置すると、熱交換器表面で流水と常時、熱交換されるため、高い熱通過率が得られたと考えられます。■ 流水熱のメリット・デメリット 化石燃料を使用する施設園芸のボイラーをヒートポンプシステムで置き換えると想定した場合、重油や灯油などの燃料代からヒートポンプを稼働させる電気代に変わるため、ランニングコストが変動しにくくなるとともに、二酸化炭素の排出量の減少などがメリットとして挙げられます。デメリットとしては、水熱源ヒートポンプと熱交換器のイニシャルコストが高価である点が挙げられます。 流水熱を地中熱と比較すると、地中熱は採熱用の孔(ボアホール方式、直径0.1~0.2m、深さ100~200m)を掘削しなければならず、熱交換器の設置コストが高くなっていました。本成果のように流水中にシート状熱交換器を設置できれば、ボアホール方式における熱交換器の設置コストを約50%に抑えられます。■ 水路に導入する際の注意 農業用水路にヒートポンプシステムを導入する場合、あらかじめ水路管理者である土地改良区や水利組合に相談する必要があります。EMと一体化したシート状熱交換器を水路側壁に設置し、上流端遮断板を設けることでゴミの付着を防げるものの、長期間水路内に熱交換器を設置していると、ゴミは少なからず付着し、熱交換への影響や水路の流れの阻害などの問題が生じると考えられます。そのため、流水熱利用を目的とした水路利用者は、水路管理者に労力や心理的負担を生じさせないよう、設置の手続き、日々の管理方法などについて十分な話し合いをすることが特に重要です。■ おわりに カーボンニュートラルや脱炭素などの目標を達成するには、資源を有効に利用する必要があり、流水熱の利用によって、省エネルギーや二酸化炭素の排出量の削減などの効果が期待できます。流水熱を利用したヒートポンプシステムは、将来的には施設園芸の冷暖房など農業分野に留まらず、商店や民家などでも利用可能であると考えています。 農業用水路は全国に敷設されており、規模や水深、流速は場所により異なります。本成果では、比較的規模の大きな水路を対象としました。今後は水位が低い小規模な農業用水路を活用した流水熱の研究を進め、幅広い分野で普及できるよう取り組んでいきます。(農村工学研究部門 地域資源工学研究領域)付記:本成果は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「地中熱・流水熱利用型クローズドシステムの技術開発」(平成26-30年度)で得られたものである。用語解説̶※1 熱通過率 熱交換器で汲み上げた熱量を熱交換器内外温度差(K:熱交換器内側の熱媒温度と水路の流水温度の差)で除した熱交換率(kW/K)を算定し、熱交換率を熱交換可能な熱交換器の面積で除した値。単位は(kW/(K・m2))。参考文献̶1)資源エネルギー庁(2020) 総合エネルギー統計.             http://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/results.html#headline2 (参照 2021-1-29)2)内山洋司(2021) “産業電化”による省エネ・脱炭素イノベーションの実現. エネルギー・資源学会誌, vol.42(1), 25-29.3)土屋遼太ら(2019) 温室効果ガスインベントリに基づく農業由来の温室効果ガス排出の現状. 農業施設, 第50巻(3), 19-27.4)奥島里美ら(2016) 表層水および浅層地中を熱源とした温室暖冷房用ヒートポンプシステムの運転事例. 農工研技報, 218, 39-50.5)O. Büyükalaca. et al. (2003) Experimental investigation of Seyhan River and dam lake as heat source-sink for a heat pump. Energy, vol.28, 157-169.6)後藤眞宏ら(2018) 流水中に設置したシート状熱交換器の熱交換特性と農業用水路への設置方法. 農研機構報告, 農村工学部門3, 29-41.7)相澤正樹ら(2012) 施設園芸における水熱源式ヒートポンプの利活用. 農水省技術会議の新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業(21058)「低炭素時代に向けた自然エネルギー利用率を最大限に高める施設栽培用ヒートポンプシステムの開発」研究グループ.25NARO Technical Report /No.8/2021

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