有機圧電フィルムの特性を利用して開発した円柱型の超音波スピーカーイチゴ栽培施設(茨城県つくば市・佐藤武史氏)のパイプ資材から吊るした場合(左)とネギ露地ほ場(千葉県松戸市・平川嘉一氏)に「くの字型」で設置した場合(右)図4イチゴ栽培施設での合成超音波によるハスモンヨトウ卵塊数の低減効果図5204060調査日卵塊数/10a09/199/249/2910/0410/0910/1410/1910/2410/29超音波なし超音波あり超音波ありたり185卵塊を発見したのに対し、設置条件では6週間で8.2卵塊以下となりました1)7)(図5)。超音波スピーカーを設置したほ場では、無設置条件と比較して卵塊数は95%以上少なくなった計算になります。授粉のためにミツバチをハウス内に放飼するため、防除対象害虫以外の昆虫への悪影響が懸念されましたが、イチゴの着果数や果実形態に異常は見られませんでした。一方、主要害虫のナミハダニやヒラズハナアザミウマに対しては、超音波による明確な被害の抑制は認められませんでした。■ 露地ほ場における シロイチモジヨトウの防除 シロイチモジヨトウは前述のハスモンヨトウと近縁な種で、ネギへの被害が顕著に多いことが知られています。盛夏以降は1~2週間隔で殺虫剤を散布しないと壊滅的な被害により、ほとんど収穫できないほ場も出てきます。葉ネギなどでは可食部である葉を中心に幼虫が食害することから、防除圧が必然的に高くなりますが、殺虫剤抵抗性の獲得を回避するためにも新規の防除技術が求められていました。 露地栽培においては、上空からのシロイチモジヨトウの飛来を想定し、ほ場の四隅に立てた支柱の先端部に「くの字型」となるようスピーカー2台を連結させましたほ場試験に先立ち、飛翔行動を効率的に阻害する時間構造(超音波パルスの長さなど)と音圧を実験室内にて精査しました。その結果、両種はともにパルス長が5ms前後、反復率が10および20Hz、鼓膜の位置で64dB peSPL(peak equivalent sound pressure level = 持続時間の短い音の最大振幅値を同じ振幅値の持続純音の音圧レベルで表したもの; re.20µPa)以上の音圧となる超音波パルスから逃げる頻度が高いことを明らかにしました7)(図3)。■ 栽培施設におけるハスモンヨトウの防除 土耕促成栽培イチゴの栽培施設(単棟5ハウス)を試験ほ場とし、並列する5ハウスの両端のハウスに超音波スピーカーを2台ずつ、側窓の高さに合わせて施設内のパイプ資材から吊るしました(図4左)。育苗ほから本ぽへの定植後の9月上~下旬に超音波スピーカーを設置し、ハスモンヨトウが卵を産みに飛来する夜間に超音波パルスをハウスの外側に向けて照射しました。超音波スピーカーを設置しない条件と設置・稼働した条件で、栽培施設内全体に産みつけられたハスモンヨトウの卵塊数を比較しました。 卵塊数は、超音波スピーカーを設置した条件で少数となりました。装置の無設置ほ場で5週の積算で10a当28NARO Technical Report /No.8/2021超音波を利用した物理的防除技術
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