農研機構技報No.8
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小麦粉パン(A)と米粉パン(B)の製造工程の比較図5澱粉粒糊化澱粉生地の攪拌発酵初期発酵後期焼成後グルテン発酵ガス発酵ガス水増粘剤・グルテン無添加米粉パンの製造工程B通常の小麦粉パンの製造工程A水うまくつくることができるからです。 澱粉の損傷度と澱粉粒の吸水性には正の相関があることが知られています7)。生地の発酵の際、澱粉の損傷度が高いと気泡膜を形成する澱粉粒が水を吸水し重くなります。また、微粒子型フォームでは、気泡膜を形成する粒子の親水/疎水性バランスが重要であることが報告されています8)。このため、澱粉粒が発酵途中で吸水すると多面体構造が崩れるとともに親水/疎水性バランスが変化し、フォームの維持ができなくなると考えられます。できあがったパンの気泡構造を比べてみましょう。小麦粉パンの気泡は大小様々であるのに対し、増粘剤やグルテンを含まない米粉パンでは気泡が小さくそろっていることがわかります(図1C)。■ おわりに 開発した製パン技術については2015年7月に特許出願し、2019年9月に登録されました9)。今後は、パン製造者をはじめ様々な企業に技術提供し、食味、品質、価格の面で消費者に満足いただけるパンの実用化を目指します。また、小麦粉製品を摂取できない小麦アレルギー患者やセリアック病の方が国内外におられます。このパンや米粉を国内のみならず、海外展開するための準備も進めています。(食品研究部門 食品加工流通研究領域)用語解説̶※1 増粘多糖類 HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)やキサンタンガム、グアーガムなど、水に分散した際に粘性を示す多糖類の総称。様々な食品で粘りやとろみを付与するために利用されている。参考文献̶1)農林水産省(2021) 米粉をめぐる状況について.              http://www.ma.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/attach/pdf/index-194.pdf (参照 2021-1-20)2)Yano, H. (2019) Recent practical researches in the development of gluten-free breads. npj Science of Food, 3, Article No.7.3)Fu, W. and Yano, H. (2020) Development of “new” bread and cheese. Processes, 8(12), Article No.1541.4)佐藤宏之ら(2017) 米粉パン、飼料用米及び焼酎原料等、多用途利用される暖地向き多収米新品種「ミズホチカラ」の育成.九州沖縄農業研究センター報告,vol.66, 47-63.5)Yano, H. et al. (2017) Development of gluten-free rice bread: Pickering stabilization as a possible batter-swelling mechanism. LWT - Food Science and Technology, vol.79, 632-639.6)Pickering, S. U. (1907) Emulsions. Journal of the Chemical Society, vol.91, 2001-2021.7)Hasjim, J. et al. (2012) Milling of rice grains: The roles of starch structures in the solubility and swelling properties of rice our. Starch/Stärke, vol.64, 631‒645.8)Du, Z. et al. (2003) Outstanding stability of particle-stabilized bubbles. Langmuir, vol.19, 3106-3108.9)矢野裕之(2019) グルテン及び増粘剤を含まない米粉パンの製造方法.特許第6584185号.9NARO Technical Report /No.8/2021

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