農研機構技報No.9
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ンによる水稲への被害を事前に予測し、現地へ情報伝達することにより、対策を講じる時間的余裕を生み出すことを目的として、気象予報値から水稲フェーン被害注意情報を作出し、栽培管理支援システム※2を通じて情報配信するシステム(2019)を構築しました4)。■ フェーン強度の定量化と 乳白粒発生との関係 乾風害などを引き起こすフェーンによる高温で乾燥した強風の状態は大気の蒸散強制力(FTP)により評価できます5)。FTPとは、古典的な蒸発速度推定式のうち蒸発の駆動に関わる成分のみを抽出したもので、大気が植物体から水分を奪おうとする程度を表し、以下の式で計算されます。 ここで、Da:大気飽差(hPa)、U:風速(m/s)、es:飽和水蒸気圧(hPa)、e:水蒸気圧(hPa)です。 FTPの導入により、地上気象データ(気温、湿度、風速)のみからフェーンの強度が定量化できるようになりました。そして、気象庁GPVデータのような水平格子の気象データを利用すれば、フェーンの吹走状態(水平分布)やその時間変化を可視化することが可能になりました(図2)。 フェーンの発生期間は2日から3日間にわたって継続することもありますが、数時間程度で終了する場合もあります。水稲の生育ステージにおけるフェーン遭遇のタイミング、フェーン強度および継続時間と乳白粒の発生との関係を実験的に明らかとするため、九州沖縄農業研究センター(合志)において、出穂期の異なる水稲4品種を5月、■ はじめに 水稲が出穂期から登熟前半に、背後に位置する山々を超え水田に吹き下ろす高温で乾燥した強風(以降フェーン)に遭遇すると白未熟粒※1の一種である乳白粒(図1)が多発し、コメの外観品質が大きく損なわれることがあります。外観品質の低下は、歩留まりの低下や減収など、生産者の経営に影響を及ぼします。フェーン吹走条件下では、稲体の水分状態が一時的に低下し、環境適応戦略として浸透調節が働くことにより、胚乳における糖の集積が促進され澱粉集積が阻害された結果、籾内に白濁が形成され乳白粒となることが明らかになっています1)。例えば、2007(平成19)年南九州における早期水稲被害2)、2019(令和元)年新潟県産米被害3)など、国内各地で数年に一度程度の割合でフェーンの関与する大きな水稲被害が発生しています。近年は、温暖化の進行により海水面温度が高く維持され、台風が勢力を維持したまま日本列島に接近するケースが多くなっています。夏季のフェーンは台風に伴って発生する場合が多く、フェーンの強大化による水稲被害の増大も懸念されます。そこで、フェーフェーンの影響により乳白粒が多発した玄米(全体的に白く濁った粒が乳白粒)図1Da =es − eFTP = Da√U柴田 昇平SHIBATA Shohei水稲のフェーン被害予測による乳白粒の発生抑制を目指して特集 防ぐⅠ 420NARO Technical Report /No.9/2021

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