農研機構技報No.9
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心して田んぼダムに取り組めるよう情報を提供しました。■ 生産者が安心して 田んぼダムに取り組むには 田んぼダムは以前から提案されていましたが、特定の地域以外へは取り組みが広がっていませんでした。その一■ はじめに 最近の豪雨は気候変動などの影響により台風以外の時期でも発生していることから、今後、冠水や洪水の被災リスクは高まることが予想されます。これまでの主な気象災害への対応には、ダムや堤防などによる防災インフラ整備がありますが、その実施には多大な時間と費用がかかります。そのため現状においては、迅速かつ容易で安価に減災対策を支援する技術が必要とされています。 農林分野における冠水・洪水被害軽減の取り組みには、森林の水源涵養力※1を強化する森林保全の取り組みや、農地を適切に保全管理して保水機能を発揮させる取り組みがあります。特に水田は、周りを小さな土堤である畦畔で囲んでいることから、雨水を一時的に貯留でき、貯留した水がゆっくり流出することで、下流の排水路の急激な水位上昇を抑える洪水緩和機能を有していることが知られています1)。この水田の貯留機能を人為的に高める新潟県発祥の「田んぼダム」2)の取り組みが全国に広がっています。田んぼダムは、水田の排水口である落水口に水位を調整する専用のセキ板や落水枡※2を設置して排水を制御することで、水田に雨水を貯水する、比較的容易かつ安全に取り組める豪雨対策です。これにより、水田に降った雨水の一部を水田に貯めて排水量のピークを抑え、下流域への雨水の流出を遅延させる効果が期待されることから、農村地域での具体的な豪雨対策としての活用が進んでいます。 農研機構では、農業生産を行いながら気象災害に対応するための取り組みとして、積極的に水田の貯留機能を発揮させ、どのような水田に対しても適用できる安価で容易な田んぼダムの方法を提案しました。加えて田んぼダムの取り組みが農業生産の支障とならないように、水稲が減収しない時期別の許容湛水深を明らかにして、生産者が安● この図は、水田を安全に豪雨対策に活用するための目安を示しています● 高さは貯められる最大の水深(畦畔まで)で、色は水稲の生育段階別に冠水に対する強さを表しています● このような条件の範囲内で適切に水田を活用することで、豪雨による洪水被害の軽減効果が期待できます水稲の減収尺度に基づいて策定した許容可能な湛水管理条件の例図1比較的強い弱い田植え~分げつ期10309045(cm)移植~6月下旬幼穂形成期~7月中旬穂ばらみ~出穂期~8月中旬登熟~成熟期8月下旬~収穫活着期通常の管理水深中干し1日未満3日未満5日未満湛水の許容継続期間水田の許容最大湛水深深水管理対応型の水田 :45cm等水稲草丈通常の水田 :30cm等水田の湛水深の上限水深・草丈北川 巌KITAGAWA Iwao農業生産と地域減災活動を両立する手軽で安全な「田んぼダム」による豪雨対策特集 防ぐⅠ 5かんよう24NARO Technical Report /No.9/2021

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