十分に検討して、地域が理解して納得できる取り組み7)8)にすることが不可欠です。さらに、自治体などの協力を得て、恩恵を受ける地域住民に対する情報発信にも取り組み、広く理解を得て地域全体で取り組むことが理想です。■ おわりに 田んぼダムの取り組みは、農林水産省の「多面的機能支払交付金(資源向上支払)」の助成項目になっています。このような制度を上手く活用することで、取り組みの拡大が期待されます。 しかし、田んぼダムはあくまで水田の貯水機能を営農により活用する地域連携による協働の取り組みです。水位が水田の畦畔を超えて一帯が浸水してしまう豪雨時には、田んぼダムだけでは十分な防災効果を期待できません。気候変動などの影響で豪雨の激甚化が予測される中、現状の防災インフラである排水施設などの機能診断や能力の見直しなどを行うことが重要です。将来的には、流域治水※3の概念に基づき、排水施設の更新などのハード対策を中核に、田んぼダムのような地域による協働の取り組みを組み合わせて、豪雨に対して最適な被害軽減対策を地域全体で検討することが理想といえます。(農村工学研究部門 農地基盤情報研究領域農地整備グループ)用語解説̶※1 水源涵養機能 雨水を地下に浸透させ、地下水として一時的に貯留します。この地下水は河川に還元され、河川に流れ込む水量を平準化し、洪水を緩和する働きもしています。※2 落水枡 水田の水を排水するため、水尻に排水口となるコンクリート製や樹脂製などの枡(マス)を設置します。この枡に水位調整の板を付けて水田の湛水の水位を一定に保っています。※3 流域治水 気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化などを踏まえ、堤防の整備、ダムの建設・再生などの対策をより一層加速するとともに、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川などの氾濫により浸水が想定される地域)にわたる流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方です。(引用:国土交通省HP9))参考文献̶1)農林水産省 農業・農村の有する多面的機能. https://www.ma.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou/ (参照 2021-3-10)2)宮津進ら(2012) 田んぼダムによる内水氾濫被害軽減効果の評価モデルの開発と適用. 農業農村工学会論文集, vol.282, 15-24.3)皆川裕樹ら(2020) 豪雨時の洪水被害軽減に貢献する水田の利活用法. 農研機構 普及成果情報. http://www.naro.arc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nire/136187.html (参照 2021-3-10)4)北川巌ら(2018) 農地の雨水貯水管理のための給排水管理装置. 特開2020- 026684号.5)トーヨー産業株式会社. 田んぼダム用堰板 ダムキーパー. https://www.ty-sangyo.jp/ (参照 2021-4-20)6)持永亮ら(2021) 圃場スケールでの田んぼダムによる豪雨時の雨水貯留機能. 水土の知, vol.89(8),印刷中.7)平沢俊ら(2020) 省力的な田んぼダムの実証試験. 水土の知, vol.88(3), 40-41.8)北海道農政部, 北海道空知総合振興局調整課(2020) 田んぼダム実施マニュアル.http://www.sorachi.pref.hokkaido.lg.jp/ss/csi/tannbodamu.pdf (参照 2021-4-20)9)国土交通省 流域治水の推進. https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/index.html (参照 2021-4-20)田んぼダム実施区画の排水路未実施区画の排水路実施した田んぼダムの落水口と調整板の状況「水田の貯留機能向上のための生育段階別の適正湛水管理標準作業手順書」(PDF)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/les/SOP20-411K20210225.pdf田んぼダム実施による排水路への排水流出抑制効果(観測日:2019年8月8日)写真4特集 防ぐⅠ 527NARO Technical Report /No.9/2021
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