農研機構

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家畜を病気から衛る

農研機構 動物衛生研究部門(つくば)

農研機構動物衛生研究部門では、家畜を病気から(まも)るための研究を行っています。家畜の病気の歴史は古く、家畜に深刻な病気を引き起こす伝染病については、古くから恐れられていました。エジプトで発掘された紀元前2000年頃のパピルスの中に、牛の病気の記述が出てきます。この病気は感染した家畜が高率に死亡する牛疫という牛の伝染病であったと推測されています。その後、世界中で猛威を振るったこの伝染病は、国際機関をはじめとする各国の努力により、2011年に地球上から撲滅されました。これは、人の天然痘に続く、2番目の感染症撲滅の快挙です。この牛疫の撲滅には日本人研究者が開発したワクチンも重要な働きをしました。このワクチンの製造開発には、我々のOBも活躍しています。当部門においては、現在も万が一に備えて国内用と国際用のワクチンの製造と備蓄を行っています。ちなみに、ちょうど100年前に当部門の前身である獣疫調査所が農商務省に設立されましたが、その設立にはこの牛疫という伝染病も大きく関わっています。

牛疫以外にも恐ろしい家畜の伝染病は多くあります。現在、欧州や近隣のアジア諸国で広がりを見せているアフリカ豚熱は未だワクチンが開発されておらず発生地域の養豚業に深刻な被害を与えています。また、昨年から今年にかけての冬季に日本で発生した鳥インフルエンザは養鶏産業に過去最大級の被害を与えました。このように国境を越えて広がる家畜の伝染病に対しては国を挙げての警戒が必要です。当部門では、病原体の厳重な隔離が可能な高度封じ込め施設において、これらの伝染病の診断法やワクチンに関する研究を行うとともに、国内発生時の最終的な検査も行っています。これらの伝染病以外にも、生き物である家畜には、我々人間同様に様々な病気があります。当部門では、その予防や診断のために最新のバイオテクノロジーなどを用いた技術開発を行っています。また、農場現場の最前線で疾病の診断にあたっている全国の都道府県の行政機関から依頼を受けて、より精密な検査(病性鑑定と呼んでいます)を行っています。今回の特集では、当部門が行っている研究や病性鑑定について紹介します。読者の皆様が家畜の病気について関心を持っていただければ幸いです。

農研機構 動物衛生研究部門
所長 筒井 俊之