農研機構

VOICE from NARO

魅力ある新品種を開発・保護し、日本農業に貢献

仲代達矢主演の「NORIN TEN 稲塚権次郎物語」という映画があります。世界中の小麦品種育成に関係がある日本人の物語です。「小麦農林10号」は1935年に当時岩手県農事試験場にあった国の指定試験地で稲塚権次郎さんによって育成されました。戦後、アメリカに渡ったこの品種は多肥条件でも倒伏せず、品種育成の親品種として活用され、米国のボーローグ博士らによって育成された多収品種が世界の各地で普及しました。

それにより小麦生産量は増加し、1960年から1970年に取り組まれた小麦の普及は「緑の革命」と言われ、人類の食料確保への貢献が評価され、ボーローグ博士は1970年ノーベル平和賞を受賞しました。

世界で最も生産されているりんごの品種「ふじ」も農林省園芸試験場東北支場(現農研機構果樹茶業研究部門)で開発 され、1962年に日本で品種登録されたものです。

「小麦農林10号」、「ふじ」に代表されるように世界に普及した優れた品種を日本は開発しており、近年、需要が拡大しているぶどうの「シャインマスカット」も農研機構で開発され、2006年に日本で登録された品種です。しかし、「シャインマスカット」は国内の普及を想定し海外での登録は考えていなかったため、韓国、中国へ流出し、栽培されています。

このような育成者権者が意図しない海外流出が生じることを未然に防止し、貴重な知的財産である新品種を適切に保護することを目的として、2020年12月2日に改正種苗法が成立しました。

農研機構は育成者権者として改正された種苗法に基づいた対応を行っています。2022年4月からは農業者による自家用の栽培向け増殖についても育成者権者の許諾が必要になります。これは農業者をはじめ関係者の関心が非常に高い ことから、その詳細を解説することを目的に本誌を発行します。

農研機構は、今後も国民の皆様の期待に応えられるような、魅力ある新品種を研究開発し、日本農業の競争力の向上 や農産物の輸出拡大に貢献していきたいと考えています。

農研機構 理事(研究推進Ⅰ、知財・国際標準化担当)
松田 敦郎