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農業と環境 No.134 (2011年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境研究叢書 第18号 「農業環境研究 2001−2010」 が刊行された

農業環境技術研究所は、2011年3月に農業環境研究叢書(そうしょ)第18号 「農業環境研究 2001−2010」を刊行しました。

本書は、2001年4月に発足した独立行政法人農業環境技術研究所が第2期中期計画期間を終えるに当たって、過去10年の間の主要な研究成果を1冊の本にまとめたものです。

本書は、関係する研究機関・研究室などに配布するほか、農業環境技術研究所ウェブサイトPDFファイルを公開 しています。

ここでは、本書の「はじめに」と、主要な目次をご紹介します。

はじめに

農業環境技術研究所は国立研究機関として1983年12月1日に新たに設立された.この発足には,国民に対する食料の安定的な供給ということだけではなく,農林水産業が国土における人間の生存全体を保証し得るような役割を果たすための技術を開発するという大きな期待が込められていたことが,当時の農林水産技術会議事務局長の講演から窺い知ることができる.17年が経過した2001年4月1日に,国立研究機関等の独立行政法人化が進められる中で,農業環境技術研究所も独立行政法人として装いも新たに再出発した.そして,間もなく満10年を迎える.

再出発した農業環境技術研究所は,設立当初に期待された目的がいささか凝縮されてはいるが,「農業生産の対象となる生物の生育環境に関する技術上の基礎的な調査および研究等を行うことにより,その生育環境の保全および改善に関する技術の向上に寄与する」ことを目的としている.この目的を遂行するに当たっては,具体には,国が策定する農林水産研究基本計画にそって5年の中期目標期間ごとに国により当研究所に付与される中期目標に従い中期計画を立案し,実行することとなっている.

第I期および第II期にわたる10年間には数々の輝かしい成果を上げることができた.種々の学術賞につながる数々の学術的成果はもとより,土壌モノリスを活用した土の理解増進に対する文部科学大臣表彰受賞,ミニ農村の創造・展示による農村の生物多様性の理解増進に対する文部科学大臣表彰受賞,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)への貢献,さらには農林水産研究成果10大トピックスに2005年より連続して毎年選出されていること,あるいは残留性有機汚染物質(POPs)を始め外来生物,遺伝子組換え作物などに関する各種の基本指針,実験指針,手引き,マニュアルなどに採用されていることなどは,その一例である.これらも含めこれまでに上げられた研究成果は,研究成果発表会を始め折々に開催する農業環境シンポジウム,ワークショップ,公開セミナー,研究会,国際シンポジウムやワークショップ,科学フェスティバル,アグリビジネス創出フェアなどでの発表や展示,研究所年報(和文,英文),研究所報告,研究所資料,研究成果情報,環境報告書,農環研ニュース,その他各種刊行物,さらにはホームページによって紹介をしている.

独立行政法人として再出発してから10年が経過し,第II期中期計画期間の終了を迎えるに当たり,この間に上げられた研究成果を一巻の書にまとめ公表し,読者諸賢の批評の目に晒すことは,私たちに「離見」を与えるとともに,農業環境研究の一層の発展を図る上で大いなる意義あるものと考え,ここに上梓し世に送る次第である.

本書が農業環境研究のさらなる発展と農業環境問題の解決に少しでも寄与することができるならば望外の喜びである.

2011年2月 記

佐藤 洋平

目次

はじめに

序章 農業をめぐる環境問題と環境研究 (佐藤洋平)

1. 農業をめぐる環境問題:制御と循環

2. 農業環境研究の枠組み

3. 本書の構成

I. 農業生態系における有害化学物質の動態とリスク低減 −食の安全・安心をめざして

第1章 重金属(カドミウム,ヒ素)汚染リスク評価と汚染土壌修復技術(西尾 隆)

1. 農産物中のカドミウム,ヒ素の基準値等を巡る国内外の動向

2. 農作物におけるカドミウム,ヒ素の吸収・移行特性の解明

3. 農作物の品種・系統間差や育種を利用したカドミウム低減技術の開発

4. 農耕地へのカドミウムの負荷

5. 栽培管理による農作物のカドミウム,ヒ素低減技術

6. 農作物可食部のカドミウム濃度予測手法の開発

7. カドミウムの分析技術の開発

8. カドミウム低減のための土壌修復技術

9. 農地土壌中における有機ヒ素の動態

第2章 POPs,農薬のリスク評価とリスク低減技術(與語靖洋)

1. はじめに

2. POPsの動態および作物残留低減技術

3. 農薬の環境影響評価

4. 農薬のリスク低減技術の開発

5. 農薬やPOPsの大気中挙動

6. 薬剤抵抗性と病害抵抗性誘導

7. 今後の展望

第3章 栄養塩類の動態と負荷低減(新藤純子)

1. はじめに

2. 栄養塩の土壌・地下水層での挙動と流出メカニズムの解明

3. 流域スケールの栄養塩動態シミュレーションモデル

4. 農地からのアンモニア揮散

5. 県・国・東アジアスケールの物質循環の評価と水質への影響

6. 農業環境モニタリング

7. 今後の展望

II. 地球温暖化と農業 −気候変動にそなえる

第4章 気候変動と作物生産変動予測(宮田 明)

1. はじめに

2. 農耕地観測地点における近年の気温変化の傾向

3.気候変化シナリオの統計的ダウンスケーリング

4.日本およびアジアの主要生産地のコメ収量変動予測

5. 農業水利用を考慮した大陸スケールの水循環モデルの開発

6. 今後の展望

第5章 イネ・水田生態系の応答と適応戦略(谷山一郎)

1. はじめに

2. 温暖化影響の把握

3. 温度,CO2濃度上昇の水稲への影響解析

4. 影響把握・予測のためのモデル開発・データベースの構築

5. 温暖化に対するぜい弱性の予測

第6章 温室効果ガス発生抑制と土壌炭素蓄積(八木一行)

1. はじめに

2. 温室効果ガス発生・土壌炭素蓄積メカニズムの解明

3. モニタリング手法の開発

4. 発生量評価とモデル開発

5. 発生抑制技術の開発とその評価

6. 今後の展望

III. 農業と生物多様性 −豊かな農業・農村環境をめざして

第7章 農業生態系における生物多様性の評価(安田耕司)

1. はじめに

2. 休耕田・耕作放棄地における生物多様性

3. 農業活動による生物多様性の維持

4. 農業生態系の各種環境要因が生物多様性に及ぼす影響

5. 長期・広域スケールにおける生物多様性の評価

6. 今後の展望

第8章 外来生物のリスク評価(安田耕司)

1. はじめに

2. 外来植物の定着と拡散

3. 外来生物の雑草リスクの評価

4. 非意図的に導入された昆虫等に関する研究

5. 意図的に導入された昆虫等に関する研究

6. 外来性病害微生物に関する研究

7. 外来生物データベースの構築

8. 今後の展望

第9章 遺伝子組換え作物の生態系影響評価と共存のための管理手法の開発(田中宥司)

1. はじめに

2. ほ場条件下における遺伝子組換えダイズとツルマメとの自然交雑

3. 遺伝子組換えナタネのモニタリング

4. 遺伝子組換え作物と一般栽培作物等との共存のための管理手法開発

5. 今後の展望

第10章 環境生物の情報化学物質と機能利用(藤井 毅)

1, はじめに

2. 昆虫性フェロモンの利用に関わる研究

3. 植物のアレロケミカルの利用に関わる研究

4. 微生物の有用機能の利用に関わる研究

5. 今後の展望

IV. 農業環境の把握と情報の活用 −農業環境を支える−

第11章 リモートセンシング・地理情報システムの利用(三輪哲久)

1. はじめに

2. リモートセンシング技術

3. 地理情報システムを利用した農業生態系の解析

4. 時空間情報のデータベース化とインターネットでの利用

5. 今後の展望

第12章 農業環境のモニタリングと手法の開発

1. 物理環境・ガスフラックス変動のモニタリング(宮田 明)

2. 農業環境中の放射性物質のモニタリング(西尾 隆)

第13章 農業環境情報の活用(對馬誠也)

1. はじめに

2. 分類

3. 収集・保存

4. データベース

5. 今後の展望

農業環境技術研究所 研究成果

農業環境問題と研究の流れ

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