農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

主要研究成果 12

大気CO2濃度の上昇は水田の水需要を減らす

[要約]
世界で初めて水田を対象に実施された開放系大気CO2増加(FACE)実験の結果、大気CO2濃度が現在より約200ppm上昇すると、田植えから収穫までの水稲群落の水需要が16%程度減ることがわかりました。これは将来の水田の水需要を推定するために重要な指標となります。
[背景と目的]
 現在約380ppmの大気CO2濃度は今世紀末には540〜970ppmに達するとされ、それに伴い温暖化や降雨パターンの変化が予測されています。そのような将来の温度・水資源環境下で、高CO2濃度により水稲の生育環境や水消費量がどう変化するかを、早急に予測する必要があります。当研究所ではこれまでに、世界で初めて水田を対象に行われた岩手県雫石町の開放系大気CO2濃度増加(FACE)実験で、高CO2濃度条件下でコメの収量が増加することを明らかにしています(平成15年度成果情報)。今回は、大気CO2濃度増加時の水田の水需要を推定するため、FACE条件下の水田の温度環境や水消費量の変化を調べました。
[成果の内容]
 開放系大気CO2増加(FACE)実験は、水田に設置したFACEリングから純CO2ガスを放出し、リング内のCO2濃度を周囲より約200ppm増加させます(図1)。これにより、自然状態での水田生態系の高CO2濃度に対する応答を調べることができます。
 大気CO2濃度が上昇すると生育が促進されるので収量は増加し、高CO2濃度区の乾物重は現CO2濃度区より約9%大きくなりました。一方で、高CO2濃度により、葉の気孔が閉じ気味となって蒸散が抑制されるため、高CO2濃度区の葉温は現CO2濃度区より期間平均で約0.3℃高くなり、田植えから収穫までの水稲群落の蒸散量(水消費量)は、高CO2濃度により約8%(22mm)減少しました(表1)。
 全生育期間を通して1gの乾物重を得るために植物が必要とする水需要量は、高CO2濃度によって約16%減少することがわかりました(表1)。他の主要な作物での高CO2濃度による水需要量の減少率は7〜41%と幅広いことが知られています。水稲の高CO2濃度による水節約の効果は世界の主要作物の中ではそれほど顕著でないことがわかりました(図2)。
 このように、実際の農家水田において囲いのない条件で実施したCO2増加実験から、将来のコメ生産における水需要を推定する上で重要な指標が得られました。

リサーチプロジェクト名:作物生産変動要因リサーチプロジェクト

研究担当者:大気環境研究領域 吉本真由美、大上博基(愛媛大学)、小林和彦(現:東京大学)、長谷川利拡

発表論文等:Yoshimoto et al., Agric. For. Meteorol., 133: 226-246(2005)

図表

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