13 牛の第四胃にみられたオステルターグ胃虫の寄生による頚部粘液細胞の過形成 〔伊藤 満(北海道)〕

 ホルスタイン種,雌,9カ月齢,死亡例.飼養頭数60頭の酪農一貫経営農場において,2009年5月20日に1頭,翌21日に1頭の育成牛が水様性下痢,脱水を呈して死亡した.

 剖検では,脱水が著明で,第四胃から直腸までの粘膜面は暗赤色を呈し,空腸では穿孔が1カ所で認められ,腸間膜リンパ節は腫大していた.心臓では冠状動脈に沿って心外膜下に点状出血がみられた.

 組織学的に,第四胃(提出標本)では充うっ血が顕著で,粘膜下組織では軽度の水腫がみられた.胃底部では腺腔が拡張し(図13A),拡張した腺腔内には角皮層表面にトゲ状の構造を有する線虫の寄生がみられ(図13B),その周囲にはグラム染色陽性菌及び陰性菌が認められた.同様の虫体は粘膜の表層付近でも認められた.腺腔が拡張した部位では,壁細胞が消失あるいは減少し,PAS反応陽性の細胞質を有する頚部粘液細胞が増生していた.腺底部の粘膜固有層にはリンパ球及び好中球の浸潤が軽度にみられた.

 病原検索では,主要臓器からの病原細菌は分離されなかったが,盲腸内容からStreptococcus bovisが分離された.牛ウイルス性下痢ウイルス遺伝子検出及びウイルス分離は陰性であった.盲腸内容の寄生虫検査では,コクシジウムオーシストが455 OPG認められたが,線虫卵は認められなかった.

 本症例は,虫卵検査で線虫卵は検出されず,早春の気温上昇に伴って発症したタイプUのオステルターグ症と考えられた.

牛の第四胃にみられたオステルターグ胃虫の寄生による頚部粘液細胞の過形成