19 牛の牛ウイルス性下痢ウイルスによるパイエル板リンパ球の消失と陰窩減数・陰窩ヘルニアを特徴とする全周性回腸炎 〔松本 瞳(兵庫県)〕

 ホルスタイン種,雌,323日齢,鑑定殺例.2008年4月13日生まれの育成牛が,10カ月齢頃に5日間ほど発熱,呼吸速拍,血便を呈して脱水衰弱したため,鑑定殺された.

 剖検では,回腸から結腸にかけて,暗赤色の偽膜を含んだ便が貯留し,その粘膜面には広範囲の充出血とび爛が認められた.

 組織学的には,回腸(提出標本)全周にわたる腸絨毛の萎縮と陰窩の減数が観察され,陰窩膿瘍が散見された(図19).パイエル板では,リンパ球の消失,水腫及び線維芽細胞の増殖が認められた.

 病原検索では,白血球及び臓器材料からの牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)のPCR検査により特異遺伝子が検出され,中和抗体価は当該牛血清についてBVDV1型,2型ともに2倍,母牛血清についてBVDV1型,2型ともに16倍以上であった.また,BFM細胞を用いてウイルス分離を実施したところ,BVDV1型(NCP株)が分離された.

 血液・生化学的検査では,WBC:37,800/μl,TP:7.6g/dl,Alb:3.14g/dl,GLU:600mg/dl以上,BUN:99.3mg/dl,Cre:2.0mg/dl,TCHO:42mg/dl,GOT:98U/l,GGT:61U/lであった.

 以上から,本症例は牛ウイルス性下痢・粘膜病(BVD-MD)と診断された.BVD-MDの回腸病変はパイエル板上部の粘膜に限局するが,本症例では回腸全周の粘膜で病変が観察されたことが特徴であった.

牛の牛ウイルス性下痢ウイルスによるパイエル板リンパ球の消失と陰窩減数・陰窩ヘルニアを特徴とする全周性回腸炎