黒毛和種,雄,3カ月齢,死亡例.繁殖雌牛約80頭を飼養する肉用牛農家において,2008年3月29日生まれの子牛が,5月上旬から発咳等の呼吸器症状を呈し,抗生物質等による治療を継続したが7月16日に死亡した. 剖検では,肺と胸膜及び心膜の癒着,縦隔リンパ節の腫脹,気管気管支リンパ節の重度な出血,肺の広範囲にわたる肝変化と膿瘍形成が認められた.また,心臓は肥大し,脾臓では脾柱の明瞭化がみられた. 組織学的には,肺(提出標本)の肝変化した部位で,肺胞壁や肺胞腔内に重度のマクロファージやリンパ球の浸潤がみられた.膿瘍部では,肺胞腔内に多数の紡錘形燕麦様細胞の集積巣が特徴的に認められ(図28),その中心部には構成細胞の膨化,濃縮,崩壊などの壊死性変化がみられた.隣接の病巣部で,菌塊を容れた凝固壊死巣や,周囲を取り囲む炎症細胞浸潤,多数の菌塊やこれを貪食するマクロファージの浸潤がみられた.肺について抗 Pasteurella multocida 抗体,抗 Pasteurella trehalosi 抗体,抗 Mannheimia haemolytica 抗体,抗 Histophilus somni 抗体,抗 Mycoplasma bovis 抗体,抗 Streptococcus 抗体(いずれも動物衛生研究所)による免疫組織化学的検査を実施したところ,壊死性病変部に一致して H. somni の明瞭な陽性反応が認められた. 細菌学的検査では,肺乳剤から P. multocida と Streptococcus spp. が,脾臓から H. somni が分離された. 肺から H. somni は分離されなかったものの,脾臓からの菌分離成績及び肺の特徴的な組織像と免疫組織化学的検査結果から本症例は牛の H. somni による壊死性肺炎と診断された. |