31 牛の巣状肺炎を伴う肺動脈壁多発性石灰沈着 〔上田雅彦(和歌山県)〕

 黒毛和種,雌,85日齢,死亡例.繁殖母牛20頭規模の繁殖農家で,2008年11月30日生まれの子牛が33日齢から発熱,発咳,鼻汁漏出等の症状を呈した.加療したが2009年1月21日に死亡した.

 剖検では,胸水及び心嚢水の貯留,右心房及び右心室の拡張と冠状動脈の血栓が認められた.肺の前葉から後葉前部は肝変化していた.腹腔には,黄色混濁した腹水の貯留と線維素が認められ,第四胃に潰瘍と穿孔がみられた.肝臓は腫大・硬化し,割面はにくずく様であった.腎臓には貧血性梗塞が認められた.

 組織学的に,肺(提出標本)には多発性の肺動脈壁石灰沈着(図31)と周囲結合組織の増生がみられた.肺胞腔には線維素析出と好中球浸潤が散見された.心筋線維の多発性壊死と石灰沈着がみられ,冠状動脈に線維素血栓が認められた.肝臓には小葉中心性のうっ血及び肝細胞の空胞変性,肝線維症が認められた.腎臓には急性の梗塞性病変や尿細管の石灰沈着もみられた.第四胃の穿孔部に全層性の壊死と好中球主体の細胞浸潤が認められた.

 病原検索では,肺から Mycoplasma disper が分離され,腹水から大腸菌及び Klebsiella pneumonia eが分離された.血液・生化学的検査(55日齢)で,GGT(710IU/l)は高値を示したが,Ca(10.7mg/dl),α-トコフェロール(108.1μg/dl)は正常値であった.

 本症例は肺性心(多臓器不全)と診断された.討議では,肺病変からビタミンD過給が強く疑われたが,当農家の飼養管理記録からその可能性は否定され,肺動脈壁石灰沈着の原因は特定できなかった.

牛の巣状肺炎を伴う肺動脈壁多発性石灰沈着