35 イルカの Staphylococcus aureus よる亜急性壊死性気管支肺炎 〔安藝秀実(高知県)〕

 ハンドウイルカ種,雌,年齢不詳,死亡例.本症例は水族館で飼育されていたが,2007年5月にショーを行わなくなり,8月27日に死亡し,翌28日に解剖された.

 剖検で,肺は全葉が暗赤色を帯び,大小さまざまな白色硬結巣が散在していた.肺の一部は胸腔に癒着し,胸壁に膿瘍が形成されており,剥離を行うと膿瘍から帯緑色の膿汁が漏出した.その他の臓器に著変はなかった.

 組織学的に,肺(提出標本)では,多数の細菌塊と炎症性細胞からなる退廃物が不規則な巣構造を示す壊死組織を形成し,その周囲に好中球及びマクロファージを主体とする炎症性細胞が高度に浸潤していた(図35).肺胞腔内には炎症性細胞の浸潤とともに,好酸性滲出液が充満していた.肺リンパ中心のリンパ節では,軽度の炭粉沈着とともに好中球,マクロファージが浸潤していた.肝臓では,小葉辺縁性の空胞変性が,脾臓の赤脾髄に多核巨細胞が観察された.その他の臓器には著変は認められなかった.抗 Staphylococcus aureus 抗体(QED Bioscience Inc.)を用いた免疫組織化学的検査及びグラム染色により,HE染色での細菌塊はそれぞれ,陽性抗原及びグラム陽性球菌と一致した.

 病原検索では,肺,肝臓,腎臓から S. aureus を分離した.ウイルス学的検査,生化学的検査は実施しなかった.

 以上の所見から,本症例はイルカの S. aureus 症と診断された.

イルカのStaphylococcus aureusよる亜急性壊死性気管支肺炎