43 牛の胸腺のT細胞性リンパ腫 〔小桜利恵(富山県)〕

 ホルスタイン,雄,8カ月齢,鑑定殺例.2007年8月生まれの牛が,翌年4月上旬より頸部の腫脹,硬結を呈し,予後不良と判断され同月22日に鑑定殺された.

 剖検では,胸腺頸葉及び胸葉が著しく腫大し,左頸葉から頭側にかけてソフトボール大の硬結感のある腫瘤が形成され,腫瘤内部では出血や壊死巣が多発していた.全身のリンパ節が重度に腫大,心臓では白色斑状病変が多発し,肝臓では左葉に米粒大の白色結節が一つ認められた.

 組織学的に,頸部腫瘤(提出標本)ではリンパ球様細胞がび漫性に増殖していた(図43).腫瘍細胞は類円形の大型でやや明るい核を有し,細胞質はごく少量であった.細胞形態は比較的均一であったが,分裂像がしばしば認められた.抗CD3抗体(DAKO)及び,抗CD79α抗体(DAKO)を用いた免疫組織化学的検査では,腫瘍細胞はCD3陽性であった.胸腺頸葉及び胸葉では腫瘍細胞がび漫性に増殖し皮髄境界が消失していた.腫瘍細胞は心臓,腎臓,肝臓,食道,全身のリンパ節,空回腸及び結腸で観察された.

 病原検索では,主要臓器から病原細菌は分離されず,牛白血病ウイルス抗体は陰性であった.血液検査では白血球数の上昇(71,300/μl)がみられ,異型リンパ球が認められた.

 上の所見から本症例は胸腺型牛白血病と診断された.

牛の胸腺のT細胞性リンパ腫