ニパウイルス感染症
養豚業の拡大がもたらした新興人獣共通感染症

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届出
伝染病

馬、豚、いのしし

特徴

ニパウイルス感染症ニパウイルス感染症は、1998~99年にかけてマレーシア、シンガポールでヒトの急性脳炎や豚の呼吸器・神経症状を主徴とした疾病として初めて確認された人獣共通感染症であり、その後バングラデシュやインドで発生報告が続き、2014年にはフィリピンでも発生が確認された。その後しばらく報告は無かったが、2018年にインドのカララ地区で再び発生が報告されている。この地域での発生は豚の介在が無く、飛沫を介したヒトからヒトへの直接伝播が報告されている。日本国内での発生は確認されておらずわが国では家畜伝染病予防法で届出伝染病に指定されている。原因ウイルスはパラミクソウイルス科ヘニパウイルス属に分類されるニパウイルスであり、自然宿主は果実を主食とするオオコウモリ、である。豚肉の需要拡大とともにマレーシアではオオコウモリの居住地域である熱帯雨林を切り開いて多頭集約型の養豚を展開したため、オオコウモリからブタへの感染につながったと推測されている。ニパウイルス感染症は、ヒトでは急性脳炎を主徴とし致死率は40〜75%と高い。一方、ブタでの致死率は5%以下でありヒトほど重症ではない。潜伏期間は4~14日で感染豚は発症前から尿や鼻汁中にウイルスを排泄する。臨床症状は日齢により異なる傾向があり、離乳豚や育成子豚では重篤な咳を特徴とする急性肺炎を起こす場合が多い。成豚では神経症状が強く現れる傾向が認められるが、無症状のまま急死する場合もある。また、妊娠豚が感染した場合には流産がみられることがある。豚における致死率は5%以下であるが、人では急性脳炎を主徴とし致死率は40~75%と高い。また、家畜以外にも犬、猫などの感染が報告されている。ブタ以外にもイヌ、ネコ、ウマなどの感染が報告されている。

ブタ間およびブタからヒトへの主たる感染経路は、感染ブタの体液や分泌液(尿や鼻汁等)を介した接触感染と考えられており、畜産食品を介したヒトへの感染事例は報告されていない。また、ヒトでの感染事例では、オオコウモリの尿や唾液で汚染された果実等も感染源として疑われている。


対策

有効な治療法やワクチンは開発されていない。抗体検査法(ELISA法や中和試験)は確立されているが、感染性ウイルスを扱う中和試験はバイオセーフティーレベル4施設内で実施する必要がある。この他に遺伝子診断も可能である。

[写真:感染豚で見られた肺炎の組織象。細胞が融合してできる巨細胞(矢印)を特徴とする。]

(動物衛生研究部門 宮澤光太郎)

参考情報

・家畜の監視伝染病 ニパウイルス感染症


情報公開日:2017年3月8日

情報更新日:2021年3月15日

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