| 文献資料:ムクドリについての文献情報 | ||
| 担当:山口、最終更新:2003年8月6日 | ||
| ❖ 1 一般習性 | |
|
繁殖期中はつがいごとに生活しているが、ヒナが巣立つとヒナを連れて家族ごとに生活し、夏の末からこれらの家族が集まり次第に群れの大きさを増す(山階1934)。夏ねぐらは秋には解消し、秋から冬にかけては突発的にねぐらが出現し、短期間に消失する数百羽から時には数千羽にも及ぶ大集団のねぐらをつくる(中村・中村1995)。
|
|
| ❖ 2 食性 | |
|
昆虫、クモ、腹足類、両生類、ならびに液果を食べる(小島 1929、山階1934、黒田 1956a、田原 1974、坂本 1981)。特に育雛の際は主として昆虫およびその幼虫を食べることから、害虫駆除に大きく貢献していると考えられる(山階1934、黒田 1956a、安延 1983)。志賀高原ではヒナに与えた餌の62.5%が昆虫であった(田原1974)。果実も好んで食べられる(黒田ら 1986)。秋から冬にかけては液果の類も食べるが、地方によっては柿や桃などの果樹類を食べて被害を出す(山階1934)。冬期には水田などで稲株中に潜伏している昆虫を食べたり(山階 1934)、土の中にくちばしをさし込むようにして畑や草地の昆虫などを食べる(中村・中村1995)。繁殖期には営巣場所から100-500m離れた採食地まで出かけ(黒田 1959)、冬にはねぐらから10-20kmも離れた採食地へも出かける(中村・中村1995)。
果樹への被害よりも冬期に水田などで害虫を食べることによる害虫駆除の効果が大きいとされ、古くは重要な益鳥として保護されてきた(山階1934)。繁殖期にはキャベツ畑でモンシロチョウの幼虫を盛んに食べているという報告もある(黒田1956a)。 |
|
| ❖ 3 被害の特徴 | |
|
(1)全般的な特徴 ムクドリは大群で果樹園に飛来して食害するので、被害は大きいものとなる(安延1983)。人間社会との関係が密接なために、10mくらいに近づいても逃げないことが多く(安延1983)、防除を難しいものとしている。アンケート調査によると被害は北海道から佐賀県までほぼ全国に及ぶ(黒田ら1986)。加害作物は果樹で多く、ブドウ、ナシ、カキ、モモ、イチジク、リンゴ、おうとう、イチゴ、スモモ、メロン、ウメと多岐に渡り、全て果実が加害されるが、果実以外ではナシ、ブドウ、サクラ、リンゴ、ウメで花芽、蕾、芽への加害が報告されている(黒田ら1986)。ミカンや葉菜類、イネ、ムギなどへの被害の報告もあるが、これらは他の鳥による加害の可能性がある(黒田ら1986)。 (2)ナシへの被害 収穫期の果実を加害する鳥には、ムクドリ、オナガ、ヒヨドリ、カラス類などがあげられ、ムクドリのナシへの加害は全国的に発生している(安延1983)。収穫の始まる2〜3週間前から果実を加害する。神奈川県の例では極早生の品種「長寿」が7月前半から食害が始まり、次々と収穫期を迎える別品種を加害するが、8月中旬を過ぎるとナシ園への飛来は極度に減少し、「幸水」の収穫期である8月中旬〜下旬までで、それ以降はオナガ、ヒヨドリの被害が増加する(安延1983)。 ナシの被害には品種間でかなりの差が認められる。すなわち長十郎や二十世紀などの在来種はほとんど被害を受けないのに対し、近年改良された新水、幸水、豊水などが選択的に被害を受けている。これらの改良種は在来種に比べ一般に糖度が高く、果肉が柔らかい。このように鳥害の増大は品種改良と無縁ではない(坂本1981)。 ムクドリは、早朝ねぐらよりナシ園周辺まで大きな群れで飛来し、ナシ園周辺で数群に分散して侵入することが多い(坂本1981、安延 1983)。ムクドリの採食物の大部分はナシ園に多発生するセミ類であることが多く、その合間にナシを加害する(坂本1981、安延 1983)。1つの果実を完全に食べることは少なく、次から次へと果実に穴をあけていく場合が多い。また園内で摂食行動をする間に、爪で果実に傷をつけることも多く、商品価値の低下、腐敗の原因となる(安延1983)。 ナシの果実の熟期になると、夜間にアケビコノハなどの蛾が飛来し、口吻を差し込み、果汁を吸い、その部分がスポンジ状になり、そこから腐敗が始まる。この腐敗し始めた部分をムクドリがつつくため、蛾による被害と鳥の被害が混同されやすい(坂本1981)。防鳥網により完全に鳥が入れなくなったナシ園でも約7%の果実に害虫による傷がみられた(坂本1981)。飼育ムクドリを用いて、何らかの原因で腐敗が始まったナシと新鮮で無傷の実を同時に与えた実験では、腐敗が始まったナシのみをつついたが、新鮮な実のみを与えた場合には、その実をつついたという結果を得た(坂本1981)。 (3)ムクドリが食害しない果実 ムクドリはかんきつ類やパイナップル、バナナなどに多く含まれるショ糖を分解する酵素(スクラーゼ)を持っていない(Lane1997)。一方、ブドウやかき、ナシ、りんご、サクランボなどはほとんどの糖分が単糖類(ブドウ糖、果糖)なので、ムクドリは好んで食べる。従って、ムクドリはかんきつ類への被害は出さないことになる。ムクドリのかんきつ類への被害が報告されることもあるが、他の鳥種(ヒヨドリなど)と間違っているのであろう。 |
|
| ❖ 4 防除策 | |
|
(1)遮断 果樹園を完全に網で被覆して、物理的に侵入阻止を図る方法が最も効果的である(黒田ら1986、安延 1983)。果樹園を網で完全に覆うには、果樹や果樹棚に及ぼす影響、安全性や作業性などに問題を生じるので、網の材質や被覆方法も含めて十分な検討が必要である(安延1983)。完全被覆が容易に行えるように支柱や網張り棚を設置してしまうのがよい(安延1983)。 網目は基本的にムクドリが侵入できない大きさならばよいことになるが、果実吸蛾類やカメムシの被害防止、風害防止、雹害防止などの多目的利用を考えた方が経済的なので、9-10mm目の結節網かラッセル織網がよい(坂本1981、安延 1983)。網の材質は耐久性、作業性、経済性などから、ポリエチレン製の軟質の糸が適当である。糸は単繊維で太さは結節網では1000デニール程度、ラッセル織網では400デニール程度は必要である(安延1983)。 防鳥網の使用で問題となるのは、専用の網張り棚を設置するために、網代を含めると施設に多額の費用がかかることである(安延1983)。また網の耐用年数が3-5年と短く、短年月で更新が必要なことである(安延1983)。 さらに網目の小さな防鳥網の使用などにより、果樹園内への透光率が80%以下に低下すると、果実品質や樹体に影響が出てくることが分かっている(安延1983)。ムクドリの害虫防除の益性と網による日照不足を解消するために被害時期だけ網を張るのがよい(坂本1981)。 (2)威嚇防除(追い払い装置) 1)回転式防鳥器 県園芸試験場と(株)共立で開発した防鳥器で、半径5mのひもを遠心力で放出して、ムクドリの直接侵入を阻止するとともに、警戒心を起こさせるもので、果樹園への設置当初は10-20aあたり1基で完全に侵入を阻止するが、徐々になれを生じ、使用後3-4年を経過すると、完全防止ができる範囲は半径10m程度にまで後退する。したがって、10aあたり最高4基は必要となり、経済性の面で問題が残る(安延1983)。 2)爆音器、複合型爆音器 爆音器は多くの地域で使われているが、慣れのために効果が一時的であることが多い(坂本1981、黒田ら 1986)。県農試で爆発音とともに板や旗が打ちあがって落ちてくる複合型爆音器の効果を試験したものでは、設置初年度は見通しのよいところで100m以上離れたところでも侵入加害を防止したが、2年目になると急速な効果の減退が見られ、有効半径は20m程度に低下し、最終的には10m程度になると考えられた(安延1983)。またこれらの爆音を利用した防除機器は騒音公害を伴うので注意が必要である(坂本1981)。 3)目玉風船 カイコに様々な大きさの目玉模様を貼り付けたところ、大きいものほどムクドリは攻撃しなかった。また三角形や四角形や十字形よりも目玉模様をもっとも避けた(城田1984)。この実験結果をもとに2m60cmの風船に60cmの目玉模様をつけた風船を用いて果樹園(モモ)で防除実験を行った。モモの熟期前のムクドリが飛来していない時期から打ち上げたが、ムクドリはまったく飛来しなかった。次にブドウ園でムクドリの食害が出始めてから同様の風船を打ち上げたが、その後ムクドリの飛来は見られなかった(城田1984)。その後、この風船よりも小型の目玉風船が市販されている。目玉風船も他の威嚇型の防除装置を同様、設置当初は効果が認められることもあるが、設置期間が長くなればなるほど、慣れが生じ効果がなくなることを注意したい。 4)その他の防除機器 実物そっくりに作り上げたハイタカの模型で羽ばたきもするもの、蚊取り線香の煙、テープ、フラッシュナルコなどは、いずれも設置時に一時的な効果が認められる程度で、有効な手段とは言えない(安延1983)。これらの威嚇機器は、それまで何も防鳥対策を講じていなかったところや、果樹園の周辺に安全な餌場が多くあるようなところでは、意外な効果を発揮することもある。ムクドリの目先を変えるためにいろいろ組み合わせ使用するとともに、その効果を過信しないことがこの種の防除機器の使用にあたっては大切である(安延1983)。 (3)忌避剤 パラトリー(無登録)などの忌避剤は防除効果がない(安延1983)。 (4)銃器 多くの地域で銃による駆除を主としながら、爆音器や防鳥網も含めた方法で実施されているが、銃器は常に効果的であるわけではない(黒田ら1986)。防除効果を上げるためには、無差別な射殺は慎んだほうがよい(坂本1981)。 (5)傘、袋かけなど ムクドリは袋の上からでも食害するし、傘かけでも果実が見える状態では確実に食害し、ほとんど防除効果は認められない(安延1983)。袋かけにより防除をするのであれば、形状や材質を改良する必要がある(坂本1981)。 |
|
| ❖ 5 文献リスト | |
|
本文に引用したもの以外の文献・資料も含んでいます。
この資料を元にした総説・文献リストの発表や無断転載は、堅く禁じます。 羽田健三・牛山英彦・寺西けさい・佐野昌男 (1967) 長野県下の善光寺平におけるムクドリの冬期の就塒地域群(第一報). 日本生態学会誌 17:234-237. 橋口大介・上田恵介. (1981) 果実食者としてのムクドリ Sturnus cineraceusー”ペリット”分析の有効性ー. Strix 9:55-61. 細野哲夫 (1962) 軽井沢町東部地区におけるムクドリの塒および就塒行動. 鳥 17:145-162. 池田重栄 (1959) 椋鳥の「移植」提唱. 野鳥 24(3):176. 唐沢孝一 (1978) 都市における果実食鳥の食性と種子散布に関する研究. 鳥 27:1-20. 小島俊文 (1929) ムクドリの食性. 応用動物学雑誌 1:40-42. 黒田長久 (1956a) ムクドリの調査 第1報. 山階鳥研報 8:318-328. 黒田長久 (1956b) ムクドリの調査 第2報 繁殖(1). 山階鳥研報 9:375-386. 黒田長久 (1957) ムクドリの調査 第2報 繁殖(2). 山階鳥研報 10:413-426. 黒田長久 (1957) ムクドリの蟻浴. 鳥 14:28. 黒田長久 (1958) ムクドリの卵の測定変異について. 鳥 70:1-17. 黒田長久 (1958) ムクドリの調査(千葉県新浜御猟場を塒とする群の行動)第1報 冬期から繁殖期. 山階鳥研報 7:277-289. Kuroda, N (1959) A comparative study on the breeding biology of rural and urban colonies of the Grey starling, Sturnus cineraceus Temminck. Jap. Wildl. Bull. 17:31-77. 黒田長久 (1959) ムクドリの調査 第2報 繁殖(3). 山階鳥研報 13:31-48. 黒田長久 (1960) ムクドリの調査 第3報 繁殖期から秋への就塒行動(1. 東京以東). 山階鳥研報 14:18-29. 黒田長久 (1960) ムクドリの調査 第3報 繁殖期から秋への就塒行動(2.東京及び以西). 日本生態学会誌 10:148-153. 黒田長久 (1960) ムクドリの冬季塒内自然死について. 山階鳥研報 15:99-122. 黒田長久 (1961) ムクドリの帰塒行動とその影響要因について. 日本生態学会誌 11:26-34. 黒田長久 (1961) ムクドリにおける塒時行動系. 山階鳥研報 17:123-125. 黒田長久 (1961) ムクドリ雛の行動の個体発生. 山階鳥研報 17:83-112. 黒田長久 (1962) 動物質と植物質によるムクドリ人工飼育雛の成長比較. 山階鳥研報 18:174-184. Kuroda, N (1963) Adaptive parental feeding as a factor influencing the reproductive rate in the grey starling. Researches on population ecology 5:1-10. 黒田長久 (1963) ムクドリ幼鳥の換羽. 山階鳥研報19:260-273. 黒田長久 (1963) ムクドリの塒アンケート、その他について. 鳥18:79-105. Kuroda, N (1964) The comparative analysis of breeding rates of rural and urban grey starling colonies in Tokyo area; The second report (Part 1). J. Yamashina Inst. Ornith. 4:1-30. Kuroda, N (1964) Comparative analysis of breeding rates of rural and urban grey starling colonies in Tokyo area: The second report. Researches on population ecology 6:1-12. 黒田長久 (1973) 越ヶ谷のムクドリ冬塒群の季節的変動と大松夏塒群. 山階鳥研報 7: 34-55. 黒田長久・杉森文夫・岩本重治 (1986) ムクドリの全国状況アンケート(1) 益害性. 応用鳥学集報 6:24-47. 葛精一 (1927) 椋鳥ノ食性ニ関スル調査成績. 鳥獣調査報告 4:47-78. Lane, S. J. (1997) Preferences and apparent digestibilities of sugars by fruit damaging birds [Sturnus cineraceus, Cyanopica cyana and Hypsipetes amaurotis] in Japan . Annals of Applied Biology 130:361-370. 松井省麿 (1959) ムクドリの幼鳥を喰うアオバズク. 野鳥 24(3):174-175. 中村和雄・飯泉良則 (1995) Distress Call によるムクドリのねぐらの移動. Wildlife Conservation Japan 1:131-135. 中村登流・中村雅彦(1995) 原色日本野鳥生態図鑑<陸鳥編> pp27. 齋藤隆史 (1986) ムクドリにおける一繁殖期内の一夫二妻あるいは一妻二夫. 鳥類の繁殖戦略(上)(山岸哲編) pp. 107-129 東海大学出版会, 東京. 齋藤隆史 (1986) ムクドリの加入卵. 鳥のはなし II (中村和雄編) pp.94-99 技報堂出版, 東京. 齋藤隆・肥後睦輝・榊原茂樹 (1985) 異なる垂直的営巣環境におけるムクドリSturnus cineraceus Temminckの繁殖成績とヒナの生長. 北大農学部演習林研究報告 42:537-546. Saitou, T. (2000) Floaters as intraspecific brood parasitism in the grey starling Sturnus cineraceus. Ecological Research 16:221-231. 坂本堅五 (1981) 果樹への鳥害に関する調査ー特にムクドリによるナシへの被害を中心としてー. 応用鳥学集報 2:53-57. 城田安幸 (1984) 目玉模様を利用した鳥害防除. 植物防疫 38:510-513. 城田安幸 (1978) ムクドリの餌の食べ方ー記憶装置を備えた捕食行動のモデル化. 個体群生態学会会報 31:30-32. 竹中万紀子・中村和雄・黒田長久・杉森文夫 (1987) ムクドリの全国状況アンケート(2) 塒と生息状況. 応用鳥学集報 7:1-14. Takenaka M. & Takenaka S. (1994) Distribution Pattern and Characteristics of Grey starling Sturnus cineraceus Summer Roosts in the Eastern Kanto Area. Japanese J. Ornithol. 43:11-17. 田原徹 (1974) 志賀高原に初めて繁殖したムクドリの雛の食物. 信大志賀自然教研業績 12:143-145. Yamaguchi & Saitou (1997) Intraspecific nest parasitism in the grey starling (Sturnus cineraceus). Ecological Research 12:211-221. Yamaguchi, Y. (1997) Intraspecific nest parasitism and anti-parasite behavior in the Grey starling, Sturnus cineraceus. Journal of Ehology 15:61-68. Yamaguchi, Y. (2000) Parasitism strategy of the grey starling, Sturnus cineraceus: Selection based on host characters and nest location. Ecological Research 15:113-120. 山階芳麿(1934) 日本の鳥類と其生態 第一巻 pp55-59. 安延義弘 (1983) ナシ果を加害するムクドリの防除法. 植物防疫 37:538-542. |