研究所トップ研究成果情報平成27年度

日本短角種牛を採草地で冬季放牧する時の家畜管理方法と翌年収量

[要約]

北東北でも少積雪量で牧柵と道路が利用できれば、採草地で長期の冬季放牧が可能であり、日本短角種牛の滞在場所はサイレージの給与場所で管理できる。オーチャードグラスとイタリアンライグラスの優占採草地で放牧すると翌年の採草収量は減少する。

[キーワード]

採草地、収量、滞在場所、日本短角種、冬季放牧

[担当]

農研機構東北農業研究センター・畜産飼料作研究領域

[代表連絡先]

電話019-643-3433

[区分]

東北農業・畜産飼料作

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

日本短角種肥育農家は、年1回の秋に肥育素牛を導入し、出荷を周年で徐々に行う。したがって、導入直後の秋には牛舎が満員で、導入直前には空きが多いが増頭は困難である。導入から数ヶ月でも牛を放牧できれば、増頭が比較的低コストで行える。しかし、北東北の放牧地は多くが山間地にあり、冬季には積雪で草地、牧柵、道路が利用できない。それに対し、採草地は比較的標高が低く積雪量や期間が短く、人里に近い場所にもある。そこで、日本短角種肥育素牛(放牧開始時200〜230kg)を、市場導入後の10 月下旬から根雪になる1月中旬までの期間、岩手県沿岸部の採草地で林地を加えて放牧した。そして、牛のえさとして、2番草収穫後の再生草に加え、濃厚飼料を毎日給与し、放牧草が食べ尽くされた後にロールベールサイレージを給与することにより、採草地を利用した高密度の冬季放牧の技術開発を行う。

[成果の内容・特徴]

  1. 採草地で、2番草収穫後の再生草が食べ尽くされた後に、サイレージを給与することにより、11〜1月の比較的長期間に、草地1ha 当たり15〜23 頭という高密度の冬季放牧ができる(図1)。積雪中には牧柵と道路が利用できれば、放牧期間の延長はできる。
  2. 牛の林地での滞在は、放牧直後の探索期間(図3左の2003/10/31、2004/11/3)、積雪発生時(2003/12/20)、林地でのサイレージ給与時(2004/12/11,2005/1/4)に限られ、しかも林奥に侵入することはほとんどない。したがって、アカマツ林地は積雪時の避難場所として有用だが、大面積の林地を用意する必要はない。
  3. 牛は、水飲み場や濃厚飼料給餌場所でなくても、サイレージを多く給与する場所に多く滞在する。つまり、サイレージの給与場所によって、牛の滞在場所をある程度管理できる(図3右)。
  4. オーチャードグラスとイタリアンライグラスが優占する採草地で、2番草収穫後の再生草を放牧利用した場合と3番草を収穫した場合とを比較すると、放牧した採草地の翌年の収量は、オーチャードグラスが高く、イタリアンライグラスが低く、合計が低い傾向である(表1)。また、水飲み場や飼料給与場所は牛の集中により裸地や雑草になる。

[成果の活用面・留意点]

  1. 本技術は、他の牛品種や繁殖牛でも可能である。放牧草が無くなった後は、採草地を痛めないために、草地外の林地や追い込み柵周辺に牛を集めた方が良い。
  2. 日増体量は放牧草のある期間には割当草量との関係が強く、冬季放牧期間全体には、濃厚飼料との関係が強い。オーチャードグラスサイレージ(可消化養分総量49%、粗タンパク質7〜11%)飽食の場合、濃厚飼料(可消化養分総量74%、粗タンパク質12%以上)を体重当たり0.8-1.0%給与すると、去勢雄牛の日増体量は0.38-0.44kg/頭/日であった。

[具体的データ]

(東山雅一)

[その他]

研究課題名
寒冷地の土地資源を活用した自給飼料の省力・省資源・生産利用技術の開発
予算区分
交付金
研究期間
2002〜2015年度
研究担当者
東山雅一、近藤恒夫、高橋繁男、出口善隆(岩手大農)、成田大展、出口新、村 元隆行
発表論文等
1)東山ら(2010)日草誌、56(3): 203-210
2)東山ら(2013)日草誌、59(3): 206-210
3)東山ら(2015)東北農研報、117: 2-33
4)東山(2013)採草地を活かした冬季放牧農山漁村文化協会編「最新農業技術畜産vol.6」 pp.161-166 農山漁村文化協会、東京