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中山間地域の大規模水田作経営による広域連携ビジネスモデル

[要約]

共通の課題を抱える大規模水田作経営が市町村を越えて広域連携し、景観や文化等の地域の特色を活かしたブランド化により有利販売を実現するとともに、技術の平準化に向けた圃場視察や研修等を実施することで後継者育成等も推進する。

[キーワード]

中山間地域、大規模水田作経営、広域連携、ビジネスモデル

[担当]

農研機構東北農業研究センター・生産基盤研究領域

[代表連絡先]

電話019-643-3433

[区分]

東北農業・農業生産基盤(農業経営)

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

中山間地域の大規模水田作経営では、圃場の小区画・分散錯圃や畦畔の高傾斜等、平場と比べ農業生産条件が不利である。特に、大消費地から遠距離といった販売対応の困難さに加え、過疎化や高齢化の進展に伴う後継者不足は、深刻な問題である。これらに対しては、個々の経営努力のみでは限界があるため、類似の条件下にある経営間の連携が解決策として期待できる。しかし、必ずしも近隣地域に適した連携経営が存在するとは限らない。そこで、市町村単位を越えて広域に所在する中山間地域の複数の大規模水田作経営が連携し、非銘柄米等の有利販売を成立させる広域連携ビジネスモデルを提示する。

[成果の内容・特徴]

  1. このビジネスモデルでは、水田作経営が単独で達成することが困難な非銘柄米の均質大量ロット(事例では約126t)による有利販売、地域の景観と文化を活かしたブランド確立、定期的な圃場巡回や先進地視察等の研修による農業者同士(後継者含む)の技術研鑽、といった価値を創出している。その過程は、ビジネスモデルキャンバス(経営の設計図)に基づき整理することで可視化できる(図1)。
  2. 主要な事業は、共通する課題(有利販売、担い手確保、耕作放棄地)を抱える7社の大規模水田作経営が共同出資によって設立した合同販売会社を通じて、共通の栽培方法(疎植・施肥設計)に基づき地域内で生産した米を自ら定める食味基準によりチェックし、一括して買取り共同販売していることである(表1)。
  3. 広域連携することによって7社は、世界農業遺産(GIAHS)に認定された地域の景観や伝統文化と結びつけたプロモーションにより、共同販売する米に物語性を付加させている。その結果、遠隔地ながらも都市圏の専門商社や米問屋等との大量ロットによる直接取引を実現し、非銘柄米のブランド化に成功している(表2)。
  4. 広域連携で問題となるブランド米の品質保持と後継者を含む従業員の栽培技術水準の向上を目的として、7社の各圃場(共通の栽培方法)を初期生育期と出穂10 日前の計2回の頻度で定期的に視察している。具体的には、1社あたり2名以上(代表と後継者)が参加し、7社の栽培技術指導を行っている普及指導員等とともに巡回している(表3)。
  5. 合同販売会社は、販売部・購買部・審査部・営農指導部・企画広報部のほかに、地域文化の継承を視野に入れた地域貢献部で構成され、7社の経営者が各部の責任者となっている。また、事務局1名は7社以外から雇用し、主として集出荷計画や配車の手配、生産調整・在庫管理とともに、視察先の選定や研修の企画運営を任されている(表3)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 中山間地域の大規模水田作経営が広域連携によって課題解決を図る際の参考になる。
  2. 成果の活用にあたっては、創業(起業)して間もない時期を想定したビジネスモデルであることに留意する必要がある。

[具体的データ]

(安江紘幸、大室健治)

[その他]

研究課題名
地域農業を革新する6 次産業化ビジネスモデルの構築
予算区分
交付金、競争的資金(科研費)
研究期間
2014〜2015 年度
研究担当者
安江紘幸、大室健治
発表論文等
安江ら(2014)2014 年度日本農業経済学会論文集、108-113