農研機構

VOICE from NARO

多様化するニーズや気候変動に適応する稲を目指して

1993年(平成5年)と聞いて、何を思い出されますか? インターネットで1993年を検索してみると、「細川連立政権が誕生」、「皇太子、雅子さまご結婚」、「Jリーグ、空前の人気」といった懐かしい話題が大きなニュースになっていました。
この年の10大ニュースには入っていませんでしたが、北海道や東北地方の稲作では、記録的な冷夏により大凶作となった年でもあります。個人的には、民間企業を退職して大学院に進学した年であり、また水稲を材料に研究を始めたこともあって忘れられない年になっています。昨年の7月の気候は1993年にかなり似ていて、降水量が多くて日照時間が少なく、気温も低かったので心配になりました。しかし、梅雨明け後は、一転して太平洋高気圧に覆われて厳しい暑さが続き、気温が高くなったことは記憶に新しいところです。
日本の夏の平均気温は、このような極端な異常気象年を含め変動を繰り返しながら上昇しており、米の生産量や品質に大きく影響しています。一方、1人当たりの米の年間消費量は、1962年の118kgをピークに減少傾向にあり、2016年には半分程度の54kgにまで減少しております。昨年は、新型コロナウイルス禍により、飲食店など外食向けを中心に米の需要が落ち込んでいる状況にありますので、次年度の作付けに対する影響なども懸念されるところです。
農研機構では、長期的な気候の変化や多様化する米へのニーズを踏まえ、良食味であり、なおかつ収量性に優れる品種、高温による品質低下の少ない品種、冷夏で被害が大きくなるいもち病などの病気に対して抵抗性を兼ね備えた品種の育成をゲノム情報の蓄積と利用により進めております。
また、ロボット技術やAI、ICTなどの最新技術を活用したスマート農業の実用化にも力を入れております。本誌によって、稲作に関連する農研機構の様々な技術開発の状況について、皆様のご理解が深まれば幸いです。

農研機構 次世代作物開発研究センター
所長 佐々木 良治