農研機構

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生活を彩る試験研究

新しい生活の始まりを祝う入学式や卒業式。愛する人と人生を共に歩むことを誓う結婚式。親しい人との永遠の別れを悲しむお葬式。人生の節目の儀式は花に飾られて執り行われます。ここに花が無ければ、こういった儀式はずいぶん味気ないものになりそうです。花は命のある美しいものであることで、儀式を受ける人の人生が華やかなものであることの象徴として使われているように思われます。
花の美しさは主に色と香り、そして形によってつくられます。赤色、黄色、紫色といった色彩だけでなく、模様もまた美しさを際立たせる要素です。咲いた後の日数や一日の時間帯に合わせて香りが変わる花があります。
香りは温度や光の強さなど、花が置かれる環境によっても変わることがあります。またどの花も開いた時には瑞々しい形をしています。生き物の常として、花はいつか萎れ散り去ります。それでも人はできるだけ長い間、生き生きとした姿を見ていたいと思うものです。日持ちの良さもまた花にとって重要な性質の一つです。繊細な変化をみせる花の香りの性質や、日持ちの良い性質をもった花の育種の取り組みを知ることで、皆さんの花に対する関心が深まることを期待しています。
皆さんの中には、母の日にカーネーションを、父の日にヒマワリを、贈り贈られたことのある方も多いと思います。お盆やお彼岸にはお墓に花が供えられます。気候は毎年の様に変わるので、何もしなければ同じ日に花を咲かすことはできません。目的の日に花が咲くように、光や温度などを調節する必要があります。花を手に取った時に、これら節目の日に花を咲かせるために、花を作る生産者が大変な努力をされていることに想いをめ ぐらせてはいただけませんでしょうか。そして私たちの研究の目的は、遺伝子の情報も含めて植物の持つ性質を理解し、時に改変することで、さらに精度の高い調節を可能にすることです。この冊子を手にされた方が、花の生産を担う研究活動の一端を知っていただければ幸いです。

農研機構 野菜花き研究部門
花き生産流通研究領域長 中山 真義