農研機構

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畜産研究の"現在"

人類と家畜の関わりは、およそ1万2000年前の羊の家畜化から始まったとされています。それは農耕が始まる前から始まり、農耕の進展とともに家畜の種類も増えてきました。近代以降の畜産業は、家畜の繁殖を人間が管理して増殖させて飼育し、家畜の生産物を利用することで成り立っています。
牛や羊、山羊などの草食家畜については、地球の生態系を利用した、人間が通常は食用とすることができない草などを食べて、人間が必要とする動物性タンパク質の源である肉や乳を生産する「迂回生産」を担っています。時には、この「迂回生産」の効率が悪いことや穀物飼料の給与が問題視され、家畜に穀物を奪われて、人々が飢えているなどという議論を耳にすることがあります。しかし、人間は生命活動の維持のために必要な栄養素のみを摂取しているわけではありません。文化として食を楽しむことは人類社会の糧ともなっているのも事実です。おめでたい晴れの日に牛肉を食卓にあげる家庭も多いことでしょう。また、和牛肉は海外でもその品質が高く評価され、毎年輸出量が大きく伸びていて、国をあげて輸出拡大に取り組んでいます。
一方、近年では上記の穀物横取り問題だけでなく、牛のゲップが地球温暖化を増長していることが問題になっています。牛など反芻動物は牧草を消化するために胃の中に微生物を棲まわせていて、その微生物が温室効果ガスであるメタンを発生させてしまいます。また、わが国で家畜に餌として与えている穀物のほとんどを海外から輸入していますので、運搬するために多くの燃料を使い、そこからも多くの温室効果ガスを発生させていることも指摘されています。このように現代社会においては、畜産の生産性を高めることと環境保全を両立させることが課題となっていて、様々な技術開発が必要になっているのです。本号では、我々の生活において不可欠な食を支える家畜と畜産について、その研究開発の一端を紹介します。

農研機構 畜産研究部門
所長 髙橋 清也
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