農研機構

特集1

サツマイモ基腐病を防ごう

農研機構 植物防疫研究部門 所長
眞岡 哲夫MAOKA Tetsuo

サツマイモ基腐病被害について

サツマイモ基腐病(以下、基腐病)は海外からの侵入病害です。日本では2018年に南九州・沖縄地域で発生が初めて確認されてから4年が経過し、基腐病の脅威は全国の農業関係者の皆さんの知るところとなっています。初期に発生が確認された鹿児島県、宮崎県、沖縄県では大きな被害が出ていますが、他の都道府県で多発している例はありません。しかし、すでに26都道県で発生に関する病害虫発生予察特殊報が発出されており、地域によらず一層の注意が必要です。

サツマイモ基腐病とは

サツマイモがDiaporthe destruens(ディアポルテ・デストルエンス)という糸状菌(カビ)の一種に感染することで発生する病気です。発生すると茎や葉が枯れ、土中のサツマイモが腐る病気です。菌に感染した株や、ほ場などに残った茎、葉、サツマイモなどが伝染源になります。

ほ場での初期症状
(茎基部の黒変)

茎表面にできた柄子殻
(黒い粒)

胞子

発生が広がったほ場

塊根(かいこん)の腐敗症状

サツマイモ基腐病
病原菌の性質

  • 糸状菌の発育温度範囲は15-35°C(適温は28-30°C)
  • ヒルガオ科の植物(主にサツマイモ)にのみ感染
  • 病原菌の感染は育苗時、栽培時、収穫物の貯蔵時
  • 一次伝染源は、病原菌に感染した種イモ・苗(種苗伝染)と病原菌で汚染されていた土壌(土壌伝染)
サツマイモ基腐病病原菌の

基腐病は糸状菌(カビ)によって発生する土壌病害です。病気になった植物体(残さ)が土壌の中に残っているとその上で病原菌も長期間生き残ることができ、土壌の中に居座り続けることで次作の感染源になります。

最初のリスクは、種イモや苗から病原菌が持ち込まれてしまうことです。農家さんは、種イモを苗床に植えて本ぽに定植するための苗を育てます。種イモが病原菌に感染していると、そこから育った苗も感染していますし、植物残さによって苗床の土が病原菌で汚染されてしまいます。そして、農家さんが感染した苗を本ぽに植えることで、本ぽの土壌にも汚染が広がっていくのです。また購入した苗を本ぽに直接植える場合は、購入した苗が感染していると同じく汚染が広がってしまいます。

育てている最中のイモの中に病原菌が入りこんでしまう場合もあります。農家さんは収穫したサツマイモの一部を取っておいて、翌年の種イモとして使うことがあります。種イモが病原菌に感染していれば健全な苗床が汚染され、苗床が汚染されれば健全な種イモも感染し、苗を定植した本ぽにも拡がるというように堂々巡りをすることで、結果的に基腐病の感染を拡げることになってしまいます(伝染環)。そこで、この伝染環のどこかで、伝染の環を断ち切ることが重要になります。

基腐病では、この伝染環のすべての過程で病気が拡がらないように対策を講じる「総合的な取り組み」が必要なので、「持ち込まない」「増やさない」「残さない」を徹底するに尽きるのです。

こぼれ話

1993年10月30日
沖縄県ウリミバエ根絶宣言

私が植物の病気の研究を始めて、最初に赴任したのが沖縄県石垣島です。奄美・沖縄地方は、かつて侵入害虫のウリミバエによる野菜や果物への被害が深刻で、国内でのまん延を防ぐため、本土に出荷もできない状況でした。農林水産省が中心になって、ウリミバエの根絶事業を始め、侵入から75年後の1993年に世界で初めて全島での根絶を達成しました。いろんな立場の人がこの害虫を根絶させなければいけないと思い、研究者、国、県、市町村の皆さんが一緒になって取り組みました。それぞれの立場の人が「私の立場はここまでだから…」というところを一歩踏み出したことで、非常に難しい事業が成功したんだと思います。不可能を可能にした例を私は1つ見ているので、基腐病についても皆さんが、「この病気をなくそう」と思っていただき、1つの目的に向かって力を合わせていくことが大切な一歩になると思います。 (眞岡 哲夫)

当時の果実調査の様子