農研機構

VOICE from NARO

鳥獣害を解決する研究開発

私たちは野生動物による弊害を鳥獣害と呼んでいます。現場で起きていることが詳しく調べられ対策される中、鳥獣害は野生動物と人とのあつれきの問題と考えられるようになってきました。このあつれきを抑え、人の負担をどれだけ減らせるかがグループの研究開発目標です。ここで人は単なる被害者ではなく当事者で、人の活動が問題解決の鍵となります。

農研機構の鳥獣害研究は、1980年、当時の農事試験場に設置された鳥害研究室が源流です。この時期は獣類による農業被害があまり知られていませんでした。農林水産省の農業白書に「獣類の農業被害対策推進」という言葉が登場するのは1998年度からで、イノシシによる農業被害が西日本から大きくなっていた頃です。この情勢に応じて2001年、中国農業試験場に鳥獣害研究室が開設され、獣類の対策研究も進めてきました。

現在、鳥獣害は、生産物被害だけでなく農村振興の課題ととらえられ、動物衛生分野における喫緊の課題が現れるなど幅広くなっています。野生動物と人の距離も近づき、2012年にはJ R長野駅のホームを歩くクマの姿が報じられました。

日本は狭い国土を高度に利用し、野生動物と人が近距離で生活しているため、あつれきが生じやすくなります。また、1970年代を境に里地里山の役割が変化し、耕作放棄地は現在も増加しています。野生動物が人里に近づき、少子高齢化も影響して人からの圧力が弱まることで動物の行動も変化します。人に慣れた動物は図太くなり、農作物をエサとして覚えた個体は執着します。それが次世代に引き継がれ、あつれきは増し、複雑化すると予想されます。

私たちは、野生動物とどう折り合いをつけていくのか。農業被害だけでなく総合的な視野で、一括して対応できる野生動物管理が求められています。この課題に取り組む新たな一歩として、2022年2月、つくば地区で野生動物研究棟の運用を開始しました。農研機構の研究勢力が当地区に集約され、野生鳥類、獣類の飼育行動試験を基盤とした対策技術開発をこれまで以上に進めます。鳥獣害の課題を着実に解決し、地域に研究成果と開発技術を発信します。農研機構の今後の役割を熟思し、産学官との広くかつより綿密な連携を図ってまいります。

畜産研究部門 動物行動管理研究領域
研究領域長兼グループ長竹内 正彦TAKEUCHI Masahiko