農研機構

タイトル:特集1 AIを活用した農研機構のスマート農業研究

農研機構では今活発にAIを活用したスマート農業研究が行われています。
AI(人工知能)とは何ができて、AIを活用した農業で何が実現できるのでしょうか?

スマート農業にAIがどのように関係しているかをお伝えします。

基盤技術研究本部
農業情報研究センター
センター長 村上 則幸

FACTOR
1

質の良いデータの集合体

AIで最も重要なのは豊富なデータ量と質の良いデータを収集することです。AIに何かを判断させたり、考えさせたりしようとなると作物や害虫、葉っぱなどの様々な画像や温度や湿度といった気象データ、ほ場や農業施設の中など、どのような場所で取られたかという情報も重要です。では、「データがあればAIがそのまま使えるか」というとそうではなく、様々な条件の中で取られているデータですから、修正したり加工したりと色々な処理が必要になります。こうして適切に整えられたデータを使用することで精度も上がります。もちろんデータは日々刻々と増え続けていますから、膨大なデータを収集・整理する仕組みが必要で、農研機構では、主に機構内のデータを適切な形で収納する「農研機構統合データベース(以下、農研機構統合DB)」、機構内外の農業関係のデータを広く収集して共有するための「WAGRI」を整備・運用しています。そして、AI研究推進のカギとなるのは、膨大な量のデータを処理できるスーパーコンピューターの存在です。

FACTOR
2

スーパーコンピューター「紫峰」

AIに必要なものと言えば、もちろんコンピューターです。農研機構は、AI研究用にスーパーコンピューター「紫峰(しほう)を開発しました。この「紫峰」のハイパフォーマンスがあるからこそ、事例で紹介する「イネウンカ類の自動カウント技術」(関連記事)などの研究成果につながるわけです。イネウンカ類は小さな害虫です。その種を分けたり、雌雄を分けたり自動でできるようになったのもAIを使った判別技術が開発できたからです。もし「紫峰」がなかったら、もっと時間がかかります。AIをはじめ技術革新は目覚ましいものがあり、我々もこれらの新しい技術を取り入れながら、さらなる研究成果の進展を目指しています。

計算が早い!

「紫峰」の計算速度は1Pフロップス※1です。これは1秒間に浮動小数点演算が1000兆回可能です。

※1 フロップスは1秒間に浮動小数点演算が何回できるかを示すコンピューターの性能指標です。P(ペタ)は10の15乗、G(ギガ)の100万倍です。

画像処理が早い!

「紫峰」に搭載されている画像処理装置(GPU※2)は、AI・高性能計算などの計算分野において、1つで中央演算装置(CPU)100個分の性能を誇ります。「紫峰」には128基搭載されています。

※2 GPUとは「Graphics Processing Unit」の略。GPUはコンピューターの画像処理装置で、高速なグラフィック処理を得意とします。

画像:スーパーコンピューター「紫峰」

研究者100名が同時にAI計算を行うことも可能なんですよ。

POINT
1

AIが得意なことを活かす

AIは人間がデータとして持っているものを解析して判断することを得意とし、その点で人間よりも優れていますが、これまでに経験がないこと、知識として持っていないものについて解析したりすることは苦手です。したがってAI活用で重要になってくるのはデータをどれだけ蓄積しているかということになります。

AIが得意なこと
  • 画像、音声、映像の解析
  • 厳格なルールにおける判定
  • 数値化されていることを推論
AIが不得意なこと
  • 見えるものと見えないものとを一緒に描いた図の解釈
  • 長文読解
  • 感情や価値観の違いを伴った合理的でない判断

POINT
2

AIによって可能になる研究成果

AIによって可能になる農業研究はたくさんあります。例えば、メッシュ農業気象データ※3を使って、市町村単位やより細かな地区ごとの作物の生育予測をする、虫による病害の解析と原因究明を行う、あるいは農産物の市場の値動きを予測するといった、様々なことが可能になります。また、何と何をかけ合わせれば、どんな品種が生まれるのかという品種予測、それが気象条件その他によってどんな影響を受けるのかといった影響予測もすばやくできるようになります。品種開発のスピードアップにもつながってくるわけです。

※3 農研機構メッシュ農業気象データ : 約1km×1kmのエリア(メッシュ)ごとの、日別気象データ(日平均気温、日降水量など)。WAGRIからも提供されています。

POINT
3

AIを活用したスマート農業で可能になること

近年、地球規模での人口増加に伴う食料危機が叫ばれ、わが国では農業人口の減少が指摘されています。様々な可能性を備えたAIを駆使することで、次世代における食料の増産や農作業の効率化・軽減、新しい害虫防除や栽培管理で農薬・肥料の使用を減らすなど環境の保全といったことが可能になってくるでしょう。

POINT
4

DBと多様な研究部門や研究者がいてAIは活用できる

「紫峰」がどんなに優秀でも、農研機構内の各研究所で所有している病虫害、気象、遺伝資源、ゲノム情報などの研究データや都道府県の農業試験場などで積み上げられたデータがなければ正確な予測を出せません。そして、様々な研究に取り組む研究者の知見があって、AIを使った技術を生み出すことができ、育種、生産、加工、流通など農業の様々なシーンで社会実装されて役立つ研究成果になるのです。

「農研機構統合DB」
データ容量3Pバイト(300万ギガバイト)の大規模なデータベースです。農研機構内にある様々な研究データが集約されています。「農研機構統合DB」にある大量の画像データを「紫峰」で処理しています。